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2016.11.24 らしくコラム

吉本興業で35年!竹中イサオの“泣く子も笑う”処世術-Vol.10

竹中イサオ

お笑いの総本山、吉本興業のプロデューサー生活13,000日、5,000人の吉本芸人と渡り合った竹中イサオの処世術コラム。社内外、業界内外からの悩みや疑問、提案に対してボケとツッコミでビシビシ返していきまっせ!

竹中 功(たけなか いさお)

1959年大阪市生まれ、吉本興業で約35年間タレント養成やイベント・映画製作を担当。数々の謝罪会見をこなした「謝罪マスター」でもある。
単行本「よい謝罪 仕事の危機を乗り切るための謝る技術」(1,400円+税)、日経BP社より好評発売中!

学生時代、友人とケンカして、その時に謝らなかった事を今も後悔しています。どうすればいいでしょうか?(悩めるヤングおばさん)

その時、どんなことがあったんかな?まぁ、いまボクが聞いてもしゃあないな、そこは。

しかし謝るのはタイミングが重要やねん。ただただ時間が経ってしまっているとなると、なかなかこちらから連絡を取るタイミングが図れないかな?キッカケがないと動き出しにくいよね。でも「もう一生会わないからいいや」なんて諦めていないから質問してくれてんよね?

じゃあ、あなたから動いてみましょうかね!友だちに間に入ってもらったり、少し勇気をもって手紙でも送ってみる?

そんなコミュニケーションを取るところから考えてみましょう。

 

コミュニケーションというのは「心のキャッチボール」と言えるねん。

キャッチボールの良さは相手に合わせて投げて、受ける、また投げるということを繰り返すことやねん。続いていくのが楽しいことやねん。慣れてくると腕も上達するし。でも相手が受けられないような速さで投げたり、とんでもない方向に投げといて「受けられへんのか!?」なんて言ったらキャッチボールは続かないし、ケンカになってしまうやんな。だからうまく楽しく、相手に合わせて「心のキャッチボール」をしはじめようや。ということで、今回は相談してくれたあなたから投げてみようか!

 

ところで、あなたは「謝罪」することばっかりを考えないてないかな?

目的は本当に「謝罪」かな?ひょっとして「仲直り」やないかな?ここ、言葉の違いだけやとも言えるけど、実はゴールを定めるってことが大事やし、そこにどの言葉を設定するかも重要なんよ。

 

では、順番に作業に入りまひょ。

まず相手の気持ちを察することから始めようか。そのためには、あなた自身の今の気持ちを整理することでそれが見えてくるねん。これからどう動いたらいいのかも見えてくるねん。

「友人は今でも怒ってるはずや!」「もう許してくれてるかもしれん!」ってなんぼ推測したところで、これってどちらもあなたが勝手に相手の気持ちを決めているだけやねん。ここでやって欲しいのは相手の立場に立ってみるということ。今の自分の立場から相手のことを考えるのと同じように、今の自分がその友だちの立場に立ってあなたを見てみるということを実行するねん。ここで必要なことはと言うと、徹底した現状の把握やねん。そしてそこから未来を予測するねん。

やってみよか?ゴールは「仲直り」ということで行こうか!

 

・まずそもそも、過去に何があったのか?

・なぜ友人は怒ったのか?

・なぜその時すぐに謝るに至らなかったのか?

・なぜあなたは今になって、反省して謝罪する事になったのか?

・そしてなぜこんなに時間が経ってしまったのか?

 

よくボクは言うねんけど、これらを書き出してみような。紙にペンで書いてもいいし、スマホのメモでもええよ。気持ちや記憶、思い出を可視化する事で自分自身が見えてくるねん。

そして現状の把握が済んだら、そのメモったものを、相手側に代わって立ってみて、質問をくれはった人(悩めるヤングおばさん)への思いや希望、注文(ひょっとしたら苦言)を書き並べてみるねん。そして考えまくるねん、感じまくるねん。そして自分が相手側に立ってみて、どうしてもらったら許せるのか、どうなったら怒りが収まるのかなどの予測をするねん。時間は巻き戻せないから、今からやれることをやろう。この方法、あらゆる「謝罪」をしやんなん時に当てはまる事やねん。

 

実はボク、吉本興業で長年「有事」の対応責任者やってん。広報の担当者で「謝罪」の担当者やってん。

「有事」と言っても事件や事故など悪いことだけではなく、結婚や出産などのめでたい時にも稼働してたんよ。もちろん何回も何回もマスコミの前で謝罪会見もしたけどね。でも、「謝罪」は目的やなかってんな、実は。目的は被害者の怒りを抑え、再発がないことなどを宣誓し、深謝を受け入れてもらうことやねん。このワンセットに必要な作業や行為が「謝罪」なんよね。ボクの場合、その中で事件や事故に対応する時に学んだことがこういうことやねん。

 

例えば芸人さんが暴行事件を起こしたとしましょ。まずは事件の現状を把握することからはじめるのよ。

よく使われる「who」「whom」「what」「why」「when」「where」「how」の「6w1h」対応やね。徹底的に事実を集めること。ここには推測や個人の思いなどは邪魔やで。

被害の状況を理解する。そして被害を受けた人の気持ちを察する。すると、なぜ怒っているのかの根本を探せるねん。

そしてそこに誠意を持って(実際には損害賠償も含めて)対応するわけや。もちろんここには「今後こういうことが起こらないような対策」も付け加えないと不合格。

 

そして忘れてはならないのは「怒り」が静まったか、「謝罪」が受け入れられたかの答えは先方だけが持っているということね。こっちでこれぐらい謝ったから「もう許してもらえるやろう」は大間違い。決めるのは向こう側なんよ。

だから大事な事は「感じる力」の重要さやねん。考えてるだけでは見えないものを感じないとあかんねん。

だいぶんと昔の事件やけど、女子高校生時代に先生の事を恨む一件があり、その後、30年近く経ってからその先生をナイフで刺しに行ったそうやねん。人の恨みとはそんなに深いものなんよね。

 

しかし今さらの反省やないけど、「謝罪」の極意は「スピードと直接謝罪」やねん。相手の怒りや損害が発覚した時には、何を差し置いても素早く直接お詫びをせなあかんねん。

 

ただ今回の相談は時間が経ってるので「直接謝罪」がええと思うな。一人で会わずに友だちに手伝ってもらってもええね。まずはあなたが学生時代、その友人に掛けた迷惑や被害に関して、反省の念を込め深謝しよう。そして相手の言葉をしっかりと聞くというキャッチボールをはじめよう相手が口を開いてくれたらしっかりと全てを聞き入れよう言い訳とかは不要やで。さっきも書いたけどこちらの非を認め、深謝し、今後どうするかの対策例や防止策などの反省も同時に宣誓するねん。

これって友だち関係の話だけやないよ。大企業のケースでも一緒やで。時間が解決してくれるものもあるねん。

勇気を持ってボールを投げてみよう。すると不思議な事に良いことも悪いことも思い出話になって「笑顔」が返ってくるねん。

 

「謝罪」したい人、手を挙げて!でも「謝罪」はゴールやないよ。ホンマの目的を設定するのが肝やで。

 

一回きりの人生、詫びる時、相手の気持ちを良く理解したら「怒り(イカリ)」も「理解(リカイ)」に変わるよ。上手にキャッチボールすると、ホラ言葉も逆さまになったやろ。


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