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2016.12.08 らしくコラム

吉本興業で35年!竹中イサオの“泣く子も笑う”処世術-Vol.12

竹中イサオ

お笑いの総本山、吉本興業のプロデューサー生活13,000日、5,000人の吉本芸人と渡り合った竹中イサオの処世術コラム。社内外、業界内外からの悩みや疑問、提案に対してボケとツッコミでビシビシ返していきまっせ!

竹中 功(たけなか いさお)

1959年大阪市生まれ、吉本興業で約35年間タレント養成やイベント・映画製作を担当。数々の謝罪会見をこなした「謝罪マスター」でもある。
単行本「よい謝罪 仕事の危機を乗り切るための謝る技術」(1,400円+税)、日経BP社より好評発売中!

相談:「男性上司のパワハラがひどく、精神的に参っています。」(まりあさん)

こらぁ!どこのどいつや!ハラスメント野郎!!ヒトの気持ちが分からんのか!?

まりあさんの会社には、相談する窓口がないってことなんかな?
とにかく誰か、社内の人事や管理部門とか、少しでも動いてくれそうな誰かに相談したほうがええで!

多種多様な人が同じ職場で働いたり、暮らしていくようになった現代、社会では数々の不条理が起こっているよね。皆さんも心当たりがないかな?他人に対しての発言や行動が、本人の意図には関係なく相手を困らせたり、不快にさせたり、いやがらせになったり、尊厳を傷つけたり、不利益や脅威を与えていることがあるやんな!?

「自分中心」に考えたら「悪意もないし、善かれと思ってやっている」とは言えたとしても、「相手中心」に見てみたら、我慢できないし、許せないことが多々起こっているんや。これは「言葉や態度による暴力」と同じことで、コンプライアンス上も許されることではない。多くは上からの目線で見下したり、差別の視点を気にせずに持っている者の多くがこの「ハラスメント」を発しよる。

社会の権威や脅威に対抗して、個人の価値が主張され、その権利や思想、自由を尊重するという「個人主義」が発達してきたその裏で、人間関係においては様々な軋轢が生じてきている気がするんよね。「個人主義」がふくれ上がって、他人や社会のことを顧みず自分の利益や快楽だけを追求したりする「利己主義」になってきて、より多くの障害を生むことになってきてるんやないかな。

「自分はこう思う」「昔は違った」では通用せぇへん事が多い現代になったんやで。

 

職場も家庭も友人関係も地域での生活も、人と人が共存していくのが社会の常識。足りないものを補い合い、余ったものを分け合い、そうやって社会は成長してきてん。

でも今や、毎日のように「ハラスメント」に出会う時代になってきたわ。社会の色々な場面での「嫌がらせやいじめ」、要は、小中学校時代の陰湿ないじめの大人版とも言える。これらに悩み苦しむ人が多いという報道もしょっちゅう目にするね。

 

このコラムのVol.9でも書いたけど、「普通の夫婦」と呼ぶとしても、その「普通」が確定できない時代になったでしょ。LGBT(性的少数者の総称)が公になってきた今、「普通の夫婦」を単に「男女のカップルが結婚した状況」とは言えないんよね。そんな風に今の社会は性別や人種の差だけでなく、年齢、学歴、出身地、価値観などの多種多様性と付き合うことがより強く必要な時代になったことは分かるよね。

 

しかし、いつ頃から「パワハラ」「セクハラ」が使われるようになってきたのかを調べたら、まだ15年ほど前ということやったわ。2012年1月に厚生労働省が、十分注意すべきであるとしてパワーハラスメントの典型例を示してたわ。

1.暴行・傷害(身体的な攻撃)
2.脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
3.隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
4.業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
5.業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
6.私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

こうやって並んだのを見てみると、悪気はなかったけど、ボクも吉本興業時代にたくさんのハラスメントという暴力を振るっていたんかも、て気づいたわ。養成所の若手のおもんない漫才を見てたら「寝やんと稽古してこい、アホ!」「新聞も雑誌ももっと読んで世間の話題をネタにしろ、ボケ!」「視点が古いんじゃ、マヌケ!」なんてばっかり言ってましたわ。「何ぼでも代わりはいてるねん、同期の芸人に負けてるで、嫌なら辞めてまえ!」なんて毎日怒鳴ってましたもん。

関係者や後輩のみなさん、この場を借りてお詫び申し上げます。ボクの中では叱咤激励の範囲やったんやけど、受け取る側の気持ちを考えることが欠如していたかも知れません。ごめんなさい。

もちろん手を上げたことなどは全くないが、言葉の暴力だったでしょうね。ボク自身があれこれ言われることにはタフなんですが、相手や誰もがそうとは限りませんよね。ここはしっかりと反省し、今後はそういうことがないように注意いたします。相手の気持ちや立場に立って、それを理解して、コミュニケーションをしようと思います。

とは言え、今でも「芸の道の精進のためやから仕方なかったかなぁ」って思いも少しはあります。と言うのは、文字で書くと言葉の暴力に見えるかもしれませんが、愛情から出たもんで、競争に勝てるよう補助役のつもりやったんですよね。どんどん面白くなれば、仕事も増えるしギャラもアップ、全国ネット番組への出演も叶うのですから。ボクの言動も単なる理不尽やなかったように思います。

乱暴な言葉使って、意味が伝わらなければ無意味ですが、説明は添えてメッセージしていたつもりです。怒鳴られた芸人や後輩、少しは分かってくれたかな? もう遅いかな?

 

話を戻して、今の社会を見ていると、それら「ハラスメント」の多くは単なる暴力に過ぎず、それらから人々を救う機関やシステムもあんまりないように思う。単なるいじめや言葉や態度の暴力を受けた人の苦痛や苦悩の相談窓口はあるようですが、根を絶つものでもなさそうやわ。ハラスメントに出会ってから相談に行くのではなく、そういった行為自体を根絶せねばならんのですがね。

 

ネットで「ハラスメント相談」と調べると、一番に出てくるのが「大学」やったよ。

ある大学では「セクシュアル・ハラスメント相談室」と「アカデミック・パワー等ハラスメント相談室」との窓口があったし、別の大学では「キャンパス・ハラスメント防止のためのガイドライン」というのがあり、「キャンパス・ハラスメントは、身体的な接触、性的暴力あるいは性的ジョークなどのセクシュアル・ハラスメント、指導教員もしくは上司がその権力を濫用して学生や教員、あるいは職員に対して行う、嫌がらせ行為などのアカデミック・ハラスメントやパワー・ハラスメントなど、大学においては多様な形態によって発生するものです。」と定義していた。ということはそういう類いのことがあったってことやねんやろうね。それも「指導教員もしくは上司がその権力を濫用して」なんて言われると、もう相談する先さえ見えなくなってしまうやんな。

どうもこのように対策に関しては練られているようやけど、「ハラスメント根絶」などの防止策は弱い気がする。これってそもそもは「教育」の問題やからね。

 

「ハラスメント」の再発防止には、相談担当者が明確になっていることも重要やね。抑止力にもなるし。担当者は被害者の事実関係を把握し、加害者への聞き取りも実行せねばならない。この担当者は複数立つことや社外に人にも入ってもらうことも大切。そして事実確認の後には、ハラスメントの有無や問題の解決処理を行うことになる。事によっては加害者の処分も必要だし、重大な場合は「職場環境配慮義務違反」として会社がその損害を賠償しなければならないときもあるし、ハラスメントの類いで例えば、殴る・蹴るなど身体的な攻撃をした場合は「傷害罪」や「暴行罪」になる可能性もあるからね。

被害にあっている人、まりあさんも、泣き寝入りなんかしたらアカンで!

 

最後はクイズ、これら何のハラスメントか分かるかな?

セクハラ、パワハラ、モラハラ、マリハラ、マタハラ、スメハラ、エアハラ、ブラハラ、パーハラ、エイハラ、スモハラ、カラハラ、オワハラ、ソーハラ、テクハラ、エレハラ、リスハラ、アカハラ、スクハラ、アルハラ、カジハラ、ドクハラ、ペイハラ、ペットハラ、ラブハラ、レイハラ、レリハラ、ヌーハラ・・・。

 

「ハラスメント」は「暴力」やで、許したらアカン。見て見ぬふりもアカン。ここが肝やで。

 

 一回きりの人生、個人の主張も大事やけど、相手も気持ちの分かる人間になろうな。


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