テレワーク・リモートワーク総合研究所

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記事の調査概要

調査方法:海外ライターの執筆/インターネット調査

調査対象:現地の声及び海外記事リサーチ

調査期間:2025年

オーストラリアの「通勤」事情とリモートワーク

新型コロナウイルスのパンデミックは、人々の働き方だけでなく、日常の移動手段にも大きな変化をもたらしました。とりわけシドニーやメルボルンなどの都市部では、出勤や通学のスタイルが見直され、公共交通機関の利用者数にも明確な影響が現れています。

筆者が居住しているオーストラリアは、実はアジアパシフィック地域で最もリモートワークが普及した国として注目されています。

働く場所が「オフィス」から「自宅」や「カフェ」「地方」へと多様化する中で、公共交通機関を利用する頻度は大きく減少しました。つまり、働き方が変われば、通勤も変わる。都市のインフラや暮らしのスタイルさえも、リモートワークの浸透によって再構築されつつあるのだと実感しています。

1. オーストラリア主要都市ごとの公共交通事情

オーストラリアは広大な国土を持ちながらも、人口の大部分が沿岸部の都市に集中しています。特にシドニー、ブリスベン、メルボルン、アデレード、パースの5大都市は、それぞれ異なる特徴を持った都市交通ネットワークを形成しており、都市構造や生活スタイルに応じて公共交通の役割も大きく異なります。

コロナ禍以降、人々の移動行動が変化し、それに伴い公共交通機関の利用状況にも明確な違いが表れてきました。ここでは、各都市の公共交通機関の種類と、その利用者数の推移について詳しく見ていきます。

1.1 主要都市ごとの公共交通機関の種類

まず、各都市における主要な公共交通手段について概観してみましょう。


■シドニー(ニューサウスウェールズ州)
オーストラリア最大の都市で、通勤電車(Sydney Trains)、ライトレール、バス、フェリーと多様な交通網を持ちます。特にシドニー港を活用したフェリー路線は、観光と通勤の両面で重要な役割を果たしています。

■メルボルン(ビクトリア州)
世界最大級のトラム網を持つことで有名で、市内中心部はトラムが主要な移動手段です。また、V/Lineが運行する郊外鉄道やバス網も充実しています。

■ブリスベン (クイーンズランド州)
ブリスベンでは鉄道・バス・フェリーが主要な交通手段で、特にCityCatフェリーが都市内移動に広く活用されています。

■アデレード(南オーストラリア州)
鉄道網は比較的小規模ですが、トラムやバスが主な交通手段として機能しています。中心部では「無料区域」など市民フレンドリーな取り組みもあります。

■パース(西オーストラリア州)
Transperthが運行する電車とバスによる移動が主流で、郊外まで網羅された鉄道路線は通勤通学に広く利用されています。

各都市は、それぞれの地理的特性や都市設計に基づいて、異なる交通手段を発展させてきた背景があります。

1.2 主要都市ごとの利用累計数の推移累計

主要都市全体における公共交通機関の利用累計数が、コロナが始まる2019年までと2024年でどのように変化したのかまとめました。

主要都市全体における公共交通機関の利用の変化


※単位100万
※データ出典元:BITRE Australian Infrastructure and Transport Statistics Yearbook 2024

以下に、人口が多く需要の高いシドニーについて詳しく解説していきます。

2. シドニーの公共交通利用者数の変化(2019年→2024年)

シドニーでは人口が着実に増加している一方で、公共交通の利用は減少傾向にあります。特に通勤者の電車利用は、リモートワークの定着により週4回以上の利用者が2019年の66%から2024年には28.6%へと半減以下に。

Opalカード(ニューサウスウェールズ州で利用できる非接触型の公共交通ICカード)の利用状況からも、平日利用の完全回復には至っておらず、交通インフラの使われ方が根本的に変わりつつあることが読み取れます。

2.1 シドニーの年度別人口推移

シドニーはオーストラリア最大の都市であり、ニューサウスウェールズ州の州都として経済・文化・交通の中心地です。人口は年々増加しており、それに伴って都市交通の重要性も増しています。ここでは、2019年から2024年にかけてのシドニーの総人口の推移を以下の表にまとめました。

※データ出典元:Australian Bureau of Statistics(ABS)Regional Population

このように、コロナ禍による一時的な移動制限による減少があったものの、シドニーの人口は全体として増加傾向にあります。

2.2 2019 vs 2024年公共交通利用回数比較

シドニーでは、公共交通機関が通勤・通学や日常の移動手段として広く利用されています。しかし、コロナ禍以降、リモートワークの普及や移動習慣の変化により、利用者数は大きく減少しました。以下の表は、主要な公共交通手段における2019年と2024年の年間利用者数を比較したものです。

全体として、公共交通機関の利用回数は約10%減少しており、最も影響が大きかったのはバスと鉄道です。これは、通勤時間帯の減少が主要因とされ、次項ではその詳細を見ていきます。

※単位100万
※データ出典元:BITRE Australian Infrastructure and Transport Statistics Yearbook 2024

2.3 電車通勤利用者の推移

近年、在宅勤務やハイブリッドワークの定着により、電車通勤利用者数は大きく変化しました。以下は、2019年から2024年にかけての通勤者が占める利用の推移を示したものです。


※データ出典元:Sydney Trains Annual Report

2019年の週に4回以上の利用者率66パーセントと比べ、2024年は28. 6パーセントと大きく下降しています。ハイブリッド勤務を含むリモートワークの普及が、都市の通勤パターンを根本から変えつつある象徴的な傾向です。

2.4 Opal カード統計が示すシドニーCBDの交通状況

以下はシドニー中心部(CBD)の2019年から2024年までのOpal カード使用率の推移を示しています。
※データ出典元:Transport for NSW (Sydney CBD Trips)

2024年度の使用率は最もコロナの影響を受けた2021年度の114百万回からは大きく回復しました。しかし、2019年の306百万回と比べると、80パーセントの回復にとどまっています。

3. 公共交通機関利用者数減少の背景にあるリモートワークの定着

3.1シドニーは利用率が減少

シドニーでは、オーストラリア国内でもリモートワークの普及が進んでおり、それが公共交通機関の利用率の大幅な減少につながっています。

特に金融、IT、行政などホワイトカラー職が多く集まるCBD(都心部)では、2024年時点でも週2〜3日の出社にとどまる企業が多数を占めています。その結果、公共交通ネットワーク全体の稼働にも影響を及ぼしています。

リモートワークの定着が、都市交通の利用パターンを根本から変えつつある象徴的な例といえるでしょう。

3.2パースは利用率が回復

パースでは、パンデミックによる一時的な減少はあったものの、2024年には公共交通の利用率は回復しています。鉱業や建設業が経済の中心であるため、現場勤務や対面業務を伴う職種が多く、リモートワークへの移行が比較的限定的だったことが背景にあります。

また、Transperthによる電車やバスの運行サービスが安定しており、郊外から中心部への通勤手段としてのニーズが継続しています。さらに、通勤時間の混雑が比較的少ないという地域特性も、公共交通の利用継続を後押ししています。

4. 公共交通とリモートワークの関係性から見る未来の都市設計

4.1リモートワークが生んだ新しい都市の形

リモートワークの定着は、都市の構造そのものに変化をもたらしています。従来は「職住分離」が前提とされ、都市中心部にオフィスが集中し、郊外からの大量通勤が日常でした。しかし現在では、「通勤しなくても働ける」ことが前提となり、都市の再設計が求められています。

特に注目されているのが、地方分散型社会の推進です。住宅価格の高騰する都市部から、自然環境や住環境に恵まれた郊外や地方への移住が進み、「サテライトオフィス」や「コワーキングスペース」が各地で整備されるようになりました。
流れに沿うように、こうした動きは、混雑緩和や環境負荷の軽減にもつながり、持続可能な都市運営の鍵といえるでしょう。リモートワークの普及は、単なる働き方改革にとどまらず、未来の都市の在り方を根本から問い直す契機となっています。

4.2日本企業・自治体へのメッセージ

日本企業や自治体にとって、こうしたオーストラリアの実例は「次の一歩」を考える大きなヒントになると思いませんか?たとえば、日本では「通勤定期代」を前提とした交通費支給制度が一般的ですが、リモートワークの普及に伴い、この制度そのものの見直しが必要です。また、従来の都市計画も「職住分離」型から、「職住近接」や「多極分散型」へと移行するタイミングにあります。

リモートワークを基盤にすれば、都市部への一極集中を緩和し、地方でも働きながら豊かに暮らせる社会の実現が可能になります。

そのためには、公共交通とデジタルインフラを両輪で整備し、都市間・地域間のアクセスの再構築が不可欠です。

リモートワークと公共交通の融合は、単なる働き方の多様化ではなく、日本の未来の地域経済や生活の質に直結する戦略的課題といえるでしょう。

まとめ

2019年から2024年にかけてのオーストラリア主要都市における公共交通機関の利用者数の変化は、単なる移動手段の変化にとどまらず、リモートワークをはじめとした働き方の転換、さらには都市生活のあり方そのものの変化を如実に示す指標となりました。

中でもシドニーの大幅な利用率減少と、パースの回復は、地域の経済構造や政策対応の違いを反映しています。こうした変化は、日本にとっても他人事ではありません。

私たちもいま、「通勤文化の再定義」と「都市の再設計」という課題に直面しています。オーストラリアの実例から学び、持続可能で柔軟な働き方と交通インフラの融合を実現する都市づくりが、これからの日本に求められているのでしょう。

【オーストラリア在住】YORI

【オーストラリア在住】YORI

愛知県の大学を卒業後、中国上海に4年間滞在し中国語を学びつつ、インターナショナル系の病院に勤務。その後オーストラリアに移住し、現在はシングルマザーとして子育てをしながら、オーストラリアで現地企業に雇用され、介護士として働いています。ライターとしては、海外系、テクノロジー、時事が得意です。

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