テレワーク・リモートワーク総合研究所

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2026年のバンコクでは、格安の電車運賃の導入や渋滞税の検討といった交通政策の変化が、企業の働き方改革を後押ししています。電車の運賃が下がったことで公共交通機関の利用者は増えましたが、同時に混雑も深刻化。通勤の負担が可視化されたことで、リモートワークを選択する動きが広がっています。


本記事では、交通政策の変化を背景に進むバンコクのリモートワーク事情を整理します。

バンコクで急速に定着したリモートワーク

タイのリモートワークは、COVID-19パンデミックを契機に急速に普及し、わずか数年で働き方の標準として定着しました。

2020年: タイ企業の20%が恒久的なリモートワーク制度を導入(※1)
2021年: UnileverやTrue Digitalなど大手企業でホワイトカラーのほぼ100%が在宅勤務へ移行(※2)
2022〜2023年: タイ政府が労働者保護法を改正し、リモートワークが法的に正式な労働形態として認定(※3)

制度面の整備が進んだことで、在宅勤務は企業独自の福利厚生ではなく、労働制度の中で想定された働き方の一つとなっています。

※1 出典:PwC Thailand
※2 出典:Bangkok Post
※3 出典:พระราชบัญญัติ

交通政策が働き方に与える影響

2026年時点のバンコクでは、リモートワークは個人の選択を超え、経営判断として採用されるケースが増えています。交通政策によって通勤コストが明確になり、企業が働き方を再設計しやすい環境が整ったためです。

渋滞税導入の検討

タイ運輸省は2024年10月、中心部への流入車両に対する渋滞税(40〜50バーツ/日) (※4)の導入を提案しました。世界第46位の渋滞都市(※5)であるバンコクにおいて、自家用車通勤には実質的な経済負担が生じる可能性があります。

毎日出社する場合、月1,000バーツ、年間12,000バーツ(約5万円)の負担増が見込まれます。この制度は、20バーツ均一運賃の財源として年間100億バーツの税収を想定しています。

政府による在宅勤務支援

タイ労働省は「在宅労働者基金」(※6)を設立し、設備購入への低利融資を提供しています。
また、各地に「在宅労働者登録事務所」を設置し、在宅ワーカーのグループ登録やスキル向上を支援。働き方のインフラとして後押ししています。

※4 出典:National Assembly Library of Thailand
※5 出典:TomTom Traffic Index 2024
※6 出典:รับงานไปทำที่บ้าน

電車賃の料金体系の問題

バンコクの鉄道運賃は、東南アジアでも高めの水準です。BTS・MRTがそれぞれ異なる事業者によって運営されており、統一的な料金体系が存在しないためです。

従来の運賃体系

BTS: 15〜62バーツ(約63〜260円) (※7)
MRT: 17〜43バーツ(約71〜180円) (※8)

市内を横断する長距離移動では、運賃が107バーツ(約450円)に達するケースもあります。これはニューヨーク市地下鉄の全線均一料金(約380円)を上回る水準です。(※9)

最低賃金との関係

タイ労働省が2025年7月に定めたバンコクの最低賃金は400バーツ/日(※10)。市内を横断通勤する場合、往復で200バーツの交通費がかかり、給与の50%が移動だけで消える計算になります。

物理的には通勤できる距離でも、毎日かかる交通費を考えると現実的とは言えません。リモートワークは一部の特権的な働き方ではなく、生活を成り立たせるための現実的な選択肢となっています。

※7 出典:BTS
※8 出典:การรถไฟฟ้าขนส่งมวลชนแห่งประเทศไทย
※9 出典:ISEAS Research - Mass Transit Pricing and Fare Caps in Bangkok
※10 出典:Ministry of Labour

格安運賃が生んだ予想外の結果

2025年10月から、全13路線で20バーツ均一運賃政策が始まりました(※11)。この政策は、自家用車から公共交通機関への転換を促し、交通渋滞や大気汚染の改善を狙ったものです。(※12)
タイ国籍者にとっては最大80%以上の運賃値下げとなりました。

利用者急増と混雑の深刻化

運賃が下がったことで利用者は急増しましたが、同時に車内の混雑も深刻化しました。
2025年1月の1週間無料キャンペーンでは、以下のような急激な増加が見られました。

Yellow Line: 前週比114.5%増
Pink Line: 前週比122.4%増(※13)

2023年以降、バンコクの鉄道利用は前年比55.4%増と大きく回復していますが、その要因は観光客の増加や新路線の開業、学校再開によるものとされています。
オフィスワーカーの通勤環境は、運賃負担の軽減と引き換えに、混雑という新たな課題に直面しています。

※11 出典:Bangkok Post
※12 出典:タイ政府広報局
※13 出典:Bangkok Post 

混雑回避としてのリモートワーク

格安運賃政策は本来「車から電車への転換」を目的としていましたが、混雑ストレスを避けるため在宅勤務を選ぶワーカーが増加。
その結果、政府が進めるリモートワーク政策が思わぬ形で後押しされることになっています。

企業はどう対応しているのか

BTSの慢性的な混雑やスクンビット周辺の深刻な渋滞は、企業の働き方設計そのものを見直す契機となっています。
毎日の出社を前提とせず、リモートやハイブリッド勤務を組み合わせることで、通勤負荷を下げつつ生産性を維持・向上させる動きが広がっています。

外資・IT企業: 「渋滞を前提にしない」設計

Microsoft Thailandは2025年にOne Bangkokへの移転を計画し、「work-from-anywhere」を前提としたオフィスを準備しています。(※14)
データ分析により実際の出社率が30%程度と判明したことから、オフィス面積を従来の半分に縮小。デスクは固定席ではなく協働スペースを中心に配置し、「イノベーションのハブ」として再設計されています。

※14 出典:Microsoft Thailand News Center

タイ大手企業: 現実的ハイブリッド

タイの大手企業のSCGは業務特性に応じた柔軟な勤務時間制度を導入し、職種ごとにリモート可否を明確化しています。(※15)
製造・現場業務は対面必須としつつ、管理職や知識労働者には在宅勤務の選択権を付与。PM2.5悪化時や今後の渋滞税導入を見越し、「出社を選べる権利」を制度化することで、環境変化に対応できる柔軟性を確保しています。

※15 出典:SCG Chemicals 

スタートアップ: 「オフィスは集まる場所」

スタートアップや外資中小企業の多くは、完全リモート型またはコワーキングスペース活用型を採用しています。
タイ政府が発表したStartupBlink Global Startup Ecosystem Index 2023では、バンコクが世界74位にランクイン(※16)。固定オフィスを持たずプロジェクトベースで働く柔軟な働き方が、特にIT・クリエイティブ系企業で拡大しています。

※16 出典:タイ政府広報局

おわりに

バンコクでは、交通政策(格安運賃・渋滞税)と労働政策(在宅勤務支援)が連携し、結果的にリモートワークを推進する環境を生み出しました。今後も交通インフラの整備と働き方改革を一体的に進めることで、より持続可能な都市設計が可能になるでしょう。

バンコクの事例が示すように、世界中の国や都市が、それぞれの課題に向き合いながらリモートワークや新しい働き方への対応を進めています。交通渋滞、環境問題、生活コスト、そして働く人々の幸福度。それぞれの国が抱える課題は異なりますが、共通するのは「より良い働き方」を模索している点です。

完璧な答えはまだ誰も持っていません。だからこそ、国境を越えて互いの試行錯誤から学び、切磋琢磨していくことに意味があります。バンコクの挑戦、日本の取り組み、そして世界各地の実験的な施策。これらすべてが、私たち一人ひとりがベストな生き方を見つけるためのヒントになるはずです。

働き方の正解は一つではありません。大切なのは、自分にとって、そして社会にとって持続可能な選択を、共に考え続けることではないでしょうか。

【タイ在住】 sune

【タイ在住】 sune

医療メーカー営業を経て、タイの古都チェンマイへ移住し5年目。現地での3年間のタイ語留学経験を持ち、言葉や文化にも精通しています。現在はフリーランスライター、SEOコンサル、講師として活動中。東南アジアのリアルなビジネス事情やデジタルノマドの働き方を発信します。

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