2025年12月8日
ベルリン在住の筆者が調査!ベンツやBMWなど自動車メーカー発祥の地ドイツのリモートワーク事情とは
ドイツでは、多くの企業がリモートワークを取り入れています。週5日働くフルタイム就労者のリモートワーク頻度は、EU内で2番目に高い週1.6日という調査結果も。(※1)
ドイツにはベンツやBMWといった自動車有名メーカーも多く、大手企業のリモートワーク状況や日本との違いが気になる方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、ベルリン在住の筆者がドイツのリモートワーク事情を徹底調査!現地在住者がドイツの新しい働き方や企業側のリモートワークに対するリアルな声を紹介します。
※1 出典:ミュンヘン大学のライプニッツ経済研究所 Ifo Institute
ミュンヘン大学のライプニッツ経済研究所:ifo研究所は、ドイツを代表する経済研究機関で、経済政策、労働市場、ビジネス環境などの研究で知られています。EconPol(European Network for Economic and Fiscal Policy Research)は、ヨーロッパの経済・財政政策研究ネットワークです。
ドイツの2025年11月現在のリモートワーク状況
ドイツ政府機関のドイツ連邦統計局は、2025年
「就労者のリモートワーク勤務に関する調査」
を行いました。その結果から、ドイツの2025年最新リモートワーク状況を見てみましょう。
1人で業務を行う個人事業主や従業員を持つ個人事業主、被雇用主のそれぞれにアンケートを取った結果、全体の約3分の1である24.3%が日常的、またはたまにリモートワークをしていると回答しました。(※2)
出典:Statistisches Bundesamt
中でも最もリモートワーク率が高かったのが、自分1人だけで事業を行っている「従業員を持たない個人事業主」の54.7%でした。1人で仕事ができ、自由度が高いことから、日常的にリモートワークを取り入れていると考えられます。また、自分以外にスタッフを雇用している「従業員を持つ個人事業主」も38.7%はリモートワークを取り入れています。
一方で、「雇用されている従業員」では、22.0%と一気にリモートワーク率が下がります。ドイツは積極的に在宅勤務を取り入れているイメージがあり、全体を合わせてみると、ドイツの就業者の約3分の1はリモートワークを行っていることがわかります。(※2)
ドイツ連邦統計局の調査では、コロナ前2019年のリモートワーク率はたった12.9%でした。(※1)2024年は約2倍になっており、リモートワークをする人が増えているのは間違いないといえます。
※2 出典:Statistisches Bundesamt(ドイツ連邦統計局)、通称Destatis
管理職や研究者のリモートワーク率は40%超え
ドイツ連邦統計局は、同じく2025年「就労者のリモートワーク勤務に関する調査」で職業ごとのリモートワーク率も調査しています。
リモートワーク率は管理職や研究者が40%以上と最も高く、次に技術者や事務職などのオフィスワーカーが20%以上という結果になっています。(※2)
出典:Statistisches Bundesamt
以下に職種別でご紹介します。
最もリモートワーク率が高い職種は研究職の49.0%、2番目は管理職の41.6%でした。事務職は27.6%、技術者は26.4%と続いており、やはり自宅でも作業が可能な職種のリモートワーク率が高いことがわかります。
反対に、工場・機械オペレーターやサポートスタッフのリモートワーク率は1%程度と非常に低い結果になっています。(※2)
年齢や性別によってもリモートワーク率がやや異なる
ドイツ連邦統計局のサイトには以下のように記載があります。
出典:Statistisches Bundesamt
【翻訳】
性別や年齢といった社会人口学的な面も考慮すると、さらに違いが見えてきます。
男性の在宅勤務率は女性(23.6%)よりもわずかに高く(24.6%)、35歳から44歳の年齢層(28.9%)は、就労者全体よりも頻繁に在宅勤務を利用しています。
ドイツは男性も育児に参加する傾向があり、これが男女でリモートワーク率があまり変わらない一因だと推察します。
ドイツは従業員が多い会社ほどリモートワーク率が高い
ドイツ民間調査機関の欧州経済研究センター(ZEW)では、企業の規模ごとにリモートワーク頻度を調査しました。 その結果、従業員が多い企業ほどリモートワークの頻度が高いことがわかりましたのでご紹介します。
出典:ZEW
アンケートでは、IT業界(画像左)と製造業(画像右)の企業で、従業員数別のリモートワーク頻度の違いを調査しています。
IT業界の中でも従業員数100人以上の大企業では76%と、約4分の3が少なくとも3日間の在宅勤務を行っています。その一方、従業員数20〜99人の中小企業では61%、5〜19人の小規模企業ではリモートワーク率は35%という結果になっています。(※3)
IT業界ではリモートワーク推進が顕著だということがこのデータからわかります。
※3 出典:ZEW
リモートワークがドイツ企業に与える影響
コロナ禍を経てリモートワークの普及が進んだドイツですが、ドイツ企業はリモートワークについてどのように考えているのでしょうか。
ドイツ民間調査機関の欧州経済研究センター(ZEW)やドイツの公共放送局ARDが制作するテレビ番組Tagesschsuによると、ドイツ企業はリモートワークを取り入れたことで、次の良い影響を受けています。
・専門スキルを持つ人材の採用が容易になった
・従業員の職務満足度がアップした
・オフィスの場所が遠くても応募する人が増えた
柔軟な働き方ができる企業には専門スキルを持つ人材が集まりやすくなり、通勤時間や場所に関わらず応募する人も増えた(※4)ようです。
また、リモートワークによって従業員の職務満足度も上がりました。ZEWの調査では、全体の約3分の2の企業が柔軟な働き方にメリットを見出している(※3)こともわかっています。
一方で、次のようなマイナスな意見もあります。
・従業員の定着率が下がることがある
・社内コミュニケーションやチームワークへの懸念
・従業員の生産性が下がるリスクも
リモートワークが増えると、直接顔を見合わせる機会が減ります。その結果、コミュニケーションやチームワーク不足になり、希薄な人間関係が従業員の定着率低下につながる企業もある(※5)ようです。
※4 出典:Tagesschsu
※5 出典:Statistisches Bundesamt
ドイツのリモートワーク日数はEU内で2番目に高い
ここからは、世界のリモートワーク日数を調査した結果をもとに、ドイツのリモートワーク状況が世界的にどの位置にいるのか詳しく紹介していきます。
ドイツのリモートワークは週1.6日でフィンランドの次に高い
ミュンヘン経済研究所
は、40ヶ国でリモートワークの頻度について調査しました。前述したように、「平日週5日のフルタイム就労者」にアンケートを取った結果、ドイツのリモートワーク頻度は週1.6日で、EU内ではフィンランドの次に高いことがわかりました。(※1)
※出典:ミュンヘン研究所 Ifo Institute
上記の表をもとにEU内のリモートワーク頻度を計算すると平均週1.2日ですが、ドイツは1.6日と大幅に上回っています。(※1)
EU内ではリモートワーク頻度が一番高いのはフィンランドで、リモートワーク頻度はドイツを上回る週1.7日です。(※1)フィンランドでは、月の勤務時間の半分まで勤務場所と時間を自分で決められる「Working Hours Act」と呼ばれる制度が2020年に導入されました。
フィンランドがこの制度を導入した際、ドイツでも働き方に関して法制化の動きがありました。しかし、在宅勤務だけでは経済が回らないという声があり、現在までなかなか法整備が進んでいないのが現状です。
ドイツがよりリモートワークを推進していくためには、国全体での取り組みが必要なのかもしれません。
ドイツの有名なラグジュアリーカー業界のリモートワーク事情を調査
ドイツの民間企業では積極的にリモートワークやフレックスタイム制度を取り入れる大手企業が多く、従業員の声を聞きながら柔軟に対応している会社が多いです。
有名企業が率先して働き方を変えているのも、ドイツ国内全体のリモートワーク推進の動きが活発化している要因でしょう。
ここからは、ドイツを代表する車メーカーのリモートワーク事情について詳しく解説します。
アウディ(Audi AG)
アウディはフォルクスワーゲンの子会社で、ドイツのバイエルン州に本社がある高級自動車メーカーです。
New Workと称し、従業員の希望に合わせて在宅勤務と出社を組み合わせられる働き方を取り入れています。国外での勤務もでき、年間最大20日間リモートワークが可能です。
一部の業務はオフィス出社を必要とし、チームやマネージャーと相談の上勤務形態を決められます。リモートワークが難しい業務もある中で、できる限り自由に働けるよう取り組んでいる様子が伺えます。(※7)
※7 出典:Audi
ビー・エム・ダブリュー(BMW)
BMWは、ドイツのミュンヘンに本社を置く高級自動車メーカーです。フォルクスワーゲンやメルセデスベンツと並び、ドイツ国内で販売台数トップ3に入ります。
BMWではリモートワークを部分的に取り入れているほか、在宅勤務以外の柔軟な働き方も可能です。フレックスタイム制度や追加休暇、パートタイム勤務などを含め、従業員が業務や勤務時間を調整できるよう工夫しています。
また、オフィス出社でも快適に作業ができるよう、社内にコワーキングスペースや集中ゾーンを作っているのも特徴的です。
リモートワークができない従業員もパフォーマンスを最大限発揮できるように、さまざまな工夫がされているようです。(※8)
※8 出典:BMW
メルセデスベンツ(Mercedes Benz Group)
メルセデスベンツは、ドイツのシュトゥットガルトに本社を置く高級自動車メーカーです。世界で初めてガソリン自動車を開発したことでも知られています。
メルセデスベンツでは、管理職を含む全従業員がリモートワークを選択できます。
リモートワークは元々メルセデスベンツAGの従業員のみ対象でしたが、2023年にグループ協定に変更されました。これにより、現在はメルセデスベンツの子会社を含む全従業員がリモートワークできる環境が整っています。
また、2023年3月以降は個人的な理由でも、一時的に海外でリモートワークできるようになりました。
このように、メルセデスベンツは積極的に働き方を変えており、時代や従業員のニーズに合わせたルールを作る企業といえます。(※9)
※9 出典:Mercedes Benz Group
フォルクスワーゲン(Volkswagen Group)
フォルクスワーゲンはドイツを代表する高級自動車メーカーの1つで、アウディの親会社でもあります。
コロナ収束以降、出社を求める企業が増える中で、フォルクスワーゲンはリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークを継続すると発表しています。
従業員の満足度にも関わるほか、現代的な企業文化の促進にも繋がるという考えで、今もなおリモートワークを推進しています。
また、従業員が自由に勤務地を選ぶことも可能です。オフィス内に共有エリアやワークスペースを作る改修工事も進められています。
フォルクスワーゲンはアウディなどの子会社を含め、グループ全体でリモートワークを積極的に取り入れていることがわかります。(※10)
※10 出典:Volkswagen Group
トレイトン(Traton SE)
トレイトンはフォルクスワーゲンの子会社で、主にトラックやバスといった商用車を製造しています。
フォルクスワーゲンの子会社のアウディと同様に、New Workの取り組みを行っています。最大100%リモートワークが可能で、ドイツ国外でも勤務できます。インターンシップや学生アルバイトもリモートワークの対象です。
リモートワークを定着させるためのガイドライン「The way we work(私たちの働き方)」が配られるなど、従業員が新しい働き方に慣れるための取り組みも行っています。
トレイトンはコロナ以前からリモートワークを推進していましたが、コロナ禍を経てより柔軟な働き方を実現している企業です。(※11)
※11 出典:Traton SE
リモートワーク先進国のドイツはさらに自由な働き方が広がる可能性あり
私が住むベルリンからお届けしたドイツのリモートワーク事情まとめ、いかがでしたでしょうか。
フリーランスや個人事業主が多いこともあり、実はコワーキングスペースも発達しています。
有名自動車メーカーを含め、大手企業も柔軟な働き方を積極的に取り入れています。むしろ、従業員数の多い企業ほど在宅勤務を許可する傾向にあり、ワークライフバランスに対する意識が高い国といえるのではないでしょうか。
今後は首都ベルリンだけでなく、多くの都市でさらに自由な働き方が普及していくと期待しています。
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