テレワーク・リモートワーク総合研究所

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記事の調査概要

調査方法:海外在住ライターの執筆/インターネット調査

調査対象:現地の声及び海外記事リサーチ

調査期間:2025年

アメリカ企業の最前線の働き方のリアルとは?

2020年のパンデミック以降、すっかり私たちの働き方のスタイルとして定着したと思われたリモートワークですが、近年その流れに変化の兆しが見えはじめました。「世界的なRTO(Return to Office)の波」――そんな言葉が、ニュースやSNSで目に付くようになっています。

アメリカではX(旧Twitter)やAmazonといった誰もが知る巨大テック企業が、出社を原則とする方針への転換を打ち出しました。日本でもいくつかの有名企業が相次いで出社を義務付ける方向に舵を切っています。LINEヤフー株式会社では2025年春から週1回(部門によっては月1回)の出社を 、アクセンチュアでは2025年6月から原則平日のフル出社を求める方針です 。こうした動きを受けて、「やはりオフィスに戻るのが正解なのか」と感じた方もいるかもしれません。

けれども、本当に世界中の企業が一斉に出社回帰しているのでしょうか。たしかに、AmazonやXのように厳格な出社方針を打ち出した企業もありますが、同じアメリカのテック業界には、リモートワークやハイブリッド勤務をむしろ進化させている最先端企業も少なくありません。センセーショナルな報道が先行するなかで、「全世界が出社一辺倒になった」という印象だけが独り歩きしている可能性はないでしょうか。

本記事では、そんな風潮に一度立ち止まり、事実に目を向けてみたいと思います。アメリカにおける出社回帰を打ち出した企業と、あえてリモートワークを継続・強化している企業。その方針や背景をファクトに基づいて比較しながら、これからの日本の働き方を考えるヒントを探っていきます。

大手テック企業の「出社回帰」方針とその意図

なぜいま、一部のアメリカの大手テック企業は出社を重視する方針へとかじを切っているのでしょうか。その中でも特に強い出社方針を打ち出しているのが、AmazonとX(旧Twitter)です。

Amazonでは、2023年から全社員に週3日以上のオフィス出社を義務付け、2025年1月からは週5日のフルタイム出社に移行しました。アンディ・ジャシーCEOは「対面で働くことでチームが協力しやすくなり、文化の共有や学びも促進される」と語り、現場で顔を合わせることが企業文化の醸成や業務の生産性に欠かせないと強調しています。実際、昇進や昇給の条件にも出社頻度が明記されており、出社は企業運営の基盤とみなされています。

X(旧Twitter)では、2022年にイーロン・マスク氏がCEOに就任した直後、「リモート勤務は今後一切認めない」との方針が示され、全社員に週40時間のオフィス勤務が義務付けられました。マスク氏は「経営再建は厳しい道であり、高い強度で働くことが不可欠」と述べ、ハードな業務を一体となってこなすための対面勤務の必要性を強調しています。

こうした出社回帰の背景には、単なる方針転換ではなく、「出社によって組織の生産性が高まり、文化やスピードが取り戻せるのではないか」という企業側の強い期待があります。特に業績の立て直しや人材育成が急務となっている企業にとって、物理的に集まって働くことは、再び成果を出すための「確実な手段」として選ばれているのです。

柔軟な働き方を選択する最先端企業たち――リモートワーク方針と戦略

一方、すべての企業が出社回帰に動いているわけではありません。アメリカの最先端テック企業の中には、リモートワークを中長期戦略と位置づけ、制度・組織・文化の各レベルで「柔軟な働き方」を前提とする仕組みを整える企業が多数あります。

GitLab

GitLabは創業当初から物理オフィスを持たず、完全なリモート勤務(All-Remote)を採用しています 。「成果で評価される働き方」を軸に、場所・時間に縛られない柔軟性を提供。各人が裁量を持つ「manager of one」文化が根付き、働く場所は問われません 。

Dropbox

Dropboxは2020年に「Virtual First」戦略を打ち出し、日常業務はリモートを基本とし、対面で集まる機会を戦略的に設ける形へ移行しました。Dropboxは「仕事をする場所より、どう働くかの方が重要」との考えの下、社員の多くは在宅勤務を継続しています 。

NVIDIA

NVIDIAでは、ジェンスン・フアンCEOが2020年当初から「社員が無期限にリモートで働くことも全く問題ない」と明言し、現在でも「社員が自宅でもカフェでもオフィスでも、自分に最適な場所で働ける完全な裁量」を認める方針を貫いています。この方針は単なる福利厚生ではなく、人材戦略上も重要な位置づけで、リモートワーク可能な環境が優秀な人材の獲得と定着のカギになると捉えられています。

Spotify

Spotifyは2021年に「Work From Anywhere」制度を導入。社員はオフィス・自宅・別都市のコワーキングスペースなどから働くことができ、勤務形態は上司との相談で決まります。この制度は、「仕事はオフィスに来ることではなく成果を出すこと」「効果的な働き方は勤務時間では測れず、場所の自由がそれを高める」という信念に基づいています。

Salesforce

Salesforceでは、「Success from Anywhere」戦略を掲げ、「各人が最も生産的になれる時間・場所で働けるよう、企業側が権限を与えるべきだ」という認識の下、ハイブリッドな働き方を設計。社員は「オフィス常駐勤務」「週1~3日出社のフレックス」「フルリモート」の3つの働き方を自身で選択することができます。

Microsoft

Microsoftは「最大50%のリモート勤務」を基本とするハイブリッド勤務を採用しています。社員は上司と相談のうえ勤務場所を柔軟に選べ、「極端な柔軟性」という理念のもと持続可能な働き方へ転換を進めています。

リモートワークは本当に生産性を損なうのか?――データと現場の実感

AmazonやXが出社回帰をとった意図にもあるように、「リモートワークでは仕事の生産性や業績に悪影響が出るのではないか」という懸念は多くの人が持っていることでしょう。しかし、近年の研究や企業の実践事例は、こうした懸念に再考を促しています。

スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授が中国の旅行会社Ctrip(現Trip.com)で実施した実験では、リモートワークを導入した社員の生産性が13%向上し、離職率も50%減少したことが報告されています。

「Virtual First」戦略を導入しているDropboxが行った社内調査では、70%以上の社員がリモート環境での生産性向上を実感するとともに、外部に邪魔されない仕事時間の意義を感じているようです。また、同社の方針はエンゲージメントの向上や多様な人材の採用にもつながっているといいます。

「Work From Anywhere」戦略を採用しているNVIDIAの業績は象徴的です。2023年には時価総額が1兆ドルを突破するなど、リモートワークを積極的に取り入れつつ同時に企業価値の向上を実現しています。
勿論、すべての業務にリモートワークが最適とは限りません。新入社員の育成やイノベーション創出においては、対面での偶発的な対話が重要とされる場面もあるでしょう。しかし、多くの企業がリモートワークの課題を克服するための制度設計や運用を工夫し、「生産性が下がる」というイメージを覆す成果を挙げています。

最先端企業は“なぜリモートで強くなれるのか”――現場の工夫・仕組みを深掘り

リモートワークで成果を上げている企業は、「場所にとらわれず、どうすれば組織として力を発揮できるか」を徹底的に考え抜き、そのための制度設計やカルチャーづくりを戦略的に進めています。

情報共有と集中生産性を支える仕組み

リモート環境でも生産性を維持・向上させるため、多くの企業が情報の透明化と集中業務の両立に取り組んでいます。

GitLabは全業務を文書化し、「ハンドブック文化」として社内外に公開。会議も非同期が基本で、世界中どこからでもアクセス可能な情報インフラを整えています。 Dropboxでは明確なドキュメント共有と「フォーカスタイム」の導入により、集中作業とチーム連携の切り替えを支援。 Salesforceも、Slackを活用しリアルタイムかつ非同期の情報共有・連携を徹底しています。 これらに共通するのは、物理的に同じ場所にいなくても高いパフォーマンスを生む「構造化された柔軟性」の実現です。

一体感と創造性を育む交流設計

「孤立」や「偶発的な対話の減少」といった懸念に対し、各社はリアルな接点を意図的に設けています。

Dropboxは「Dropbox Studios」をリアルな集まりの場として活用し、Slack上では地域別コミュニティも運営 。GitLabは全社イベントやコーヒーチャット文化を通じてつながりを強化しており、Spotifyは年1回の「Core Week」や音楽フェス「Spotifest」を開催 。Salesforceはチーム単位で柔軟な出社日を設計する「Return & Remote」ポリシーを導入 。リアルな交流を“補完”ではなく“戦略的選択肢”と位置づけ、組織の一体感を高めています。

安心して働ける環境づくりと評価

生産性や創造性の源泉は、働きやすい環境と心理的安全性にあると考える企業は、メンタルヘルスや柔軟な勤務制度に注力しています。

NVIDIAはフルフレックス制度を導入し、「人生の仕事に集中できる環境づくり」を掲げています 。Microsoftは「勤務時間外はメールやチャットへの即時対応は不要」「緊急でない連絡は翌営業日まで待てることを明示する」といった文化を醸成し、管理職にも部下のオフ時間を尊重するよう教育しています。 GitLabでは「創造的プロセスの50%は働いていない時間に生まれる」との見解の下、非線形な働き方(勤務時間中に散歩や読書など一時離席し、後で仕事に戻ること)も許容されています。

また、これらの企業では勤務時間や出社の有無ではなく、成果に基づいた評価制度が定着しており、自律性を尊重する仕組みがパフォーマンスの基盤となっています。

働き方の柔軟性は人材戦略であり、競争力の源泉でもある

出社重視か、リモート継続か――アメリカのテック企業では、各社の経営課題や組織戦略に応じて判断が分かれています。しかし、リモートで成果を上げている企業の多くは、制度設計だけでなく文化や運用までを一体で設計し、高い柔軟性を競争力につなげています。

日本企業にとって、出社かリモートかの選択はもはや働き方の話にとどまりません。柔軟な働き方を選択肢に持つことは、優秀な人材を獲得するための「人材戦略」であり、それ自体が企業の競争力の源泉となり得ます。

たとえばアメリカの先端企業では、リモート勤務を「生産性向上の手段」であると同時に、地理的・時間的制約を超えて多様な人材にアクセスするための戦略と位置づけています。家庭や介護、地方在住といった理由で従来なら雇用が難しかった人材を活用することで、組織の厚みを増し、変化に強い体制を築いているのです。

その一方で、柔軟な働き方を機能させるには「運用力」が不可欠です。制度を整えるだけでは不十分で、成果ベースの評価制度や非同期でのチームマネジメント、心理的安全性を確保するための仕組みが求められます。

重要なのは、「なぜこの働き方を選ぶのか」という戦略的な意図を明確に言語化し、現場に浸透させること。柔軟な働き方を単なる福利厚生ではなく、人材と組織の可能性を引き出す“競争力の土台”として活かせるか――その問いに正面から向き合うことが、これからの企業の成長と持続性を左右するはずです。

【東京都在住】tknd

【東京都在住】tknd

データ分析家兼Webライター。アメリカ・シカゴの大学院に2年間留学・在住経験あり。現在はデータ分析の仕事に携わりつつ、都市の暮らしや働き方に関する記事を執筆。休日はSFやファンタジー小説を片手にカフェで読書を楽しんだり、近所の商店街や公園を歩いて散策したりするのが好きです。

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