
2025年8月26日
リモートワーク先進国イギリスの働き方はハイブリッドが新常識。その最新事情とは?
記事の調査概要
調査方法:海外ライターの執筆/インターネット調査
調査対象:現地の声及び海外記事リサーチ
調査期間:2025年
イギリスでは、リモートワークとオフィス勤務を合わせたハイブリッドがニューノーマル(新常識)な働き方として定着してきています。
※1 出典及び画像引用元:Working from Home in 2025: Five Key Facts (スタンフォード大学)
週に何日、終日フルタイムの在宅勤務が行われているかを調査したWFLリサーチによる「2025年グローバルワーキングアレンジメント調査 (※1)で、イギリスは、40カ国中で世界第2位のリモートワーク普及率となっています。
世界の平均は、1.27日/週、世界1位はカナダで1.9日/週、第2位のイギリスは1.8日/ 週、日本は0.7日/週で世界37位です。
補足:WFLリサーチと「勤務形態と意識に関する調査」は、COVID-19が勤務形態に与えた劇的な影響を受けて、シカゴ大学、ITAM、MIT、スタンフォード大学によって2020年5月に設立されました。グローバルワーキングアレンジメント調査(G-SWA)は、世界の大学の研究者と共同で実施するオンライン調査です。
この記事では、イギリス在住の筆者が「リモート先進国イギリスの最新事情」を紹介します。
イギリスのリモートワーク事情
パンデミックで2回のロックダウンがあったイギリスでは、現在はリモートワークとオフィス勤務を合わせたハイブリッドが主流、いわゆるニューノーマルとなっています。
イギリス国家統計局によると、2022年3月から徐々に増え始め、2025年3月時点で、働く成人の28%が、ハイブリッドで働いていると発表されています。(※2 )
その統計のキーポイントは以下のようにまとめられています。
・学位または同等の資格を持つ働き手は、資格を持たない働き手に比べてハイブリッドワークに従事する可能性が10倍高かった。
・ハイブリッドワークに従事する働き手の割合は、所得層が高くなるほど増加した。
・ハイブリッドワークは、イングランドにおいて、貧困度の高い地域よりも貧困度が低い地域の住民の間でより一般的であった。
・フルタイムワーカーは、パートタイムワーカーよりもハイブリッドワークに従事する可能性が高かった。
・ハイブリッドな勤務形態は、自営業者よりも従業員の間でより一般的であった。(自営業はリモートが主流)
・30歳から49歳の働き手は、ハイブリッドワークに従事する可能性が最も高かった。
※2 出典:Who has access to hybrid work in Great Britain?(イギリス国家統計局)
キーポイントからも見えるイギリスの新しい働き方の特徴とその背景は、以下の3つです。
1. 大卒のプロフェッショナル・高所得者がハイブリッドまたはリモートで働いている
イギリスには、今でも社会的階級があります。新しいハイブリッドという働き方は階級社会の上の方にいる人達にあてはまっているという、イギリス社会の不平等を浮き彫りにしているということがわかります。
イギリスの伝統的な社会階級は、上流、中流、労働者階級です。上流階級は、貴族や地主、中流は大学卒の知的労働者、実業家や専門職、労働者階級は高卒以下の肉体労働者や店員などに分けられます。
BBCが2011年に実施した階級調査(※3 )で新しく提案された7階級の中で、労働者階級に分類される働き手は社会の49%を占めています。
今回の結果では、大卒以上の働き手の59%がリモート勤務またはハイブリッド勤務をしていますが、それ以下の資格の働き手は24%以下がリモート勤務またはハイブリッド勤務となっています。
職種では、概して知的階級が働くテック企業は74%、 金融業は61%、コンサルティング・法律事務所は58%の従業員がハイブリッド勤務を実施しているという調査報告となっています。(※4)
このように、新しい働き方自体が、イギリスの階級社会の不平等さを浮き彫りにしています。
イギリスが世界第2位のリモート普及率国にランクされていることに驚く方も多いかと思いますが、背景はここにあります。WFLリサーチによる「2025年グローバルワーキングアレンジメント調査」は、対象が大卒者以上なのです。
つまり、大卒者はプロフェッショナルの仕事につき、高所得でまた働き方も柔軟なリモートが普及している、それ以外の働き手にはその恩恵が受け辛いというイギリス社会の構造が浮かび上がってきます。
※3 出典:A New Model of Social Class? Findings from the BBC’s
Great British Class Survey Experiment (BBC調査)
※4 出典:The latest hybrid work data: working patterns & personas (Argyll)
2. ロンドンがハイブリッド勤務の中心地
リモート勤務が普及する中で、地域差も明らかになっています。 61%のロンドン市民がハイブリッド勤務をしているとロンドン市が発表しています。(コロナ前は37%)(※5)
リモート勤務がロンドンで普及する理由は、住宅事情や交通事情です。イギリスの首都ロンドンはイギリスの中で人口が集中している都市です。人口の12%にあたる975万人が住み、更に移民が増え続けています。
ロンドンの住宅価格と家賃は高騰し、多くのロンドン市民はロンドン郊外の都市に住むようになりました。 しかし、郊外からロンドン市内に通勤するには、時間がかかり、交通費も高く、その上ストライキや嵐などでロンドン市内で交通マヒや遅延が頻繁に起きるため会社に時間通りに到着できないというようなことも起ります。
この状況下、働き手のワークライフバランスを重視する現在の労働市場の中、企業は大卒の有能な人材を確保して定着率を高めるために、ハイブリッド勤務を推進するようになりました。
また、ロンドンには、金融、弁護士、コンサルティング、テクノロジーなどの知的ベースの仕事が多いため、ハイブリッド勤務を推進しやすいという状況があります。その上、ロンドンには大企業の本社が多いため、柔軟な働き方を奨励する余裕のある企業であるというだけでなく、デジタルインフラも整っているという環境もハイブリッド勤務を推進しやすくしています。
※5 出典:Hybrid Working (ロンドン市議会)
3. 柔軟な働き方を推進する法改正:フレキシブル・ワーキング法制定
イギリスで2022年からハイブリッドの働き方が徐々に増えている理由の一つとして、2023年に新しい雇用関係(フレキシブル・ワーキング)法が制定されたこともあります。(※6)
新しいフレキシブル・ワーキング法では、従業員が柔軟な勤務形態を要求できる権利が強化されました。
これまで要求する従業員に対し、勤務パターンの変更が組織に与える影響についての考えを詳細に説明することが求められていましたが、新法ではこの要件が削除され、もっと自由に自分に合った勤務パターンを申請できるようになりました。
また、従来の法律では、同じ雇用主の下で26週間勤務していることがフレキシブルワークを申請できる条件でしたが、新法ではこの制限が撤廃され、誰でも入社初日から申請できるようになりました。
柔軟な勤務形態には、リモートワーク、ハイブリッド、勤務開始および終了時間の変更、短時間勤務、勤務曜日の変更、ジョブシェアリングなどが含まれ、雇用主は正当な理由がない限り拒否できないと明文化されています。
新法は、柔軟な働き方は特権ではなく、標準になるべきという政府の理念のもと制定された法律です。
新法により、フレキシブルワークは単なる制度ではなく、労働者の権利であることが定着したという成果がある一方、ワークライフバランスを享受できる職種は限られているという皮肉な結果となっています。
※6 出典:Flexible Working (英国政府)
最新のリモートワーク状況
ハイブリッド勤務がニューノーマルとして定着する一方で、オフィスに戻るように要請する会社も出てきているというニュースもあります。(※7)
2025年にオフィスに戻るように要請した会社は、Amazon、メトロポリタン警察、大手スーパーのASDAやMorrisonsなどです。
毎日ではなく出社する回数を増やすように要請している企業も多いと報告されています。(※8)
John Lewis (週3日)、IKEA (1ヶ月に12日)、バークレー銀行(週3日)、HSBC (60%) 、TESCO (週3回)などです。
この傾向は、ハイブリッドワークは、従業員の健康・幸福度増進や通勤時間の節約などの利点につながるとされる一方で、生産性の低下や企業文化の低下が懸念されているからとされます。
しかし、柔軟な仕事スタイルに慣れた従業員は、なかなかオフィスに戻ってこないという現実もあり、給与を減らすなどをいう企業 (HSBC) や、戻ってくるために逆に給与を上げたりする企業 (Amazon)、事務所での夕食を提供、オフィスにジムを併設するなどの福利厚生を増やす企業という様々な施策が取られているそうです。
※7 出典:Could we be seeing the end of working from home? (BBC)
※8 出典:UK companies ordering staff back to the office this year (Startups.)
イギリス企業の最新の状況
実際にイギリスの企業で働いている大卒の従業員にヒアリングした結果を以下にご紹介します。
・ユニリーバ:ロンドンに本部を置く世界有数の消費財メーカー (※9)
仕事内容によりますが、多くの職種で週3回の出社が推奨されています。
リモートはTeamsを通じて行い、いつでもコンタクトできる状態であることがキー。 仕事を終わらせることが最重要で、オンラインに常にいるかチェックはあまり入らないそうです。
本部の仕事は、海外や違うオフィスとのコンタクトが多いため、特にオフィスにいる必要はないですが、チームで何かをするときは、必ず会社に行くようにしているとの話でした。また週3は推奨で、週2の週もあるそうです。
・KPMG コンサルティング:世界4大会計事務所の1つのコンサルティング会社 (※10)
データアナリシスの仕事では、事務所の推奨は週2/3回の出社だが、ほとんどオフィスに行かないとのことです。
・PwC コンサルティング:ロンドンに本社を置く世界4大会計事務所の1つのコンサルティング会社 (※11)
週2/3回から2025年に最低週3回、または60%の時間を事務所またはクライアントで仕事をすることに変更されました。
・EY : 本部をロンドンに置く世界4大会計事務所の1つの総合コンサルティング会社 (※12)
EYは世界で"Workplace of the Future(将来の働く場所)”という取り組みを2016年という早期から展開しているため、世界の各事務所で固定席のない柔軟な働き方を推進しています。
その本部のあるイギリスでは、2021年からハイブリッド勤務を展開し、週2回の出社を推奨しています。
・TESCO:イギリスの大手スーパー (※13)
本社のスタッフは、週2回の出社の方針を、2024年9月から週3回に変更。インタビューしたスタッフは入社して半年のため、早く仕事を学ぶため、推奨されている回数よりもっと頻繁に出社しているということです。
※ 9 参考:Unilever UK &Ireland (公式HP)
※10 参考:KPMG UK (公式HP)
※11 参考:PwC UK (公式HP)
※12 参考:EY UK (公式HP)
※13 参考:TESCO PLC (公式HP)
インタビューの後の印象
全体的な印象としては、従業員は仕事を終わらせるために必要ならば出社するというスタンスを受けました。対面である方が仕事の質のために良い、自分のキャリアのために良いと思う場合は、推奨されているよりも多く出社するという声も多くありました。それに比べ子供のいる家庭、家を遠くに購入した人達などは、必要でない限りは出社しない(できない)という声もあります。
面白い事実は、取締役レベルは出社や時間外勤務も多いということです。そのため、やはり昇進を重視している人は推奨されている以上に出社する傾向があるそうです。
働き手の年代により、違う形でハイブリッド勤務を展開することで、ワークライフバランスをとっているイギリスの今が見えました。
終わりに
世界第2位のリモートワーク普及率を誇るとされるイギリスでは、ハイブリッド勤務が新常識となっています。
調査内容を見ていくと、ワークライフバランスが推進される知的ベースの仕事に従事する人達の中で広がっていることが分かり、柔軟な働き方は優秀な人材の確保の施策であることが分かります。
イギリスのリモートワーク事情と、直面している課題は、ワークライフバランスを推進する国々にとって、良い事例となるのではないでしょうか?
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