2025年11月10日
なぜノルウェーは短時間労働で高い生産性を保てるのか?幸福度ランキング上位国の働き方改革
出典及び画像引用元:労働生産性の国際比較 2024概要(日本生産性本部)
リモートワーク普及でも労働生産性が高い国として知られるのが、ノルウェーです。
ノルウェーといえば、フィヨルド、オーロラそしてサーモンというイメージがあるのではないでしょうか?
ノルウエーは、北欧のスカンディナヴィア半島の西岸に位置する王国です。
国土面積は日本とほぼ同じですが人口は大変少なく、日本の4%に当たる525万人です。その少ない人口に関わらずノルウェーは一人当たりのGDPは世界第6位 (2024年IMF推計) (※1) 、時間あたりの労働生産性の国際比較ではOECD加盟28カ国中世界2位 (※2)という労働生産性の高い国です。
またワークライフバランスを重視する国としても知られていて、ノルウェーはリモート社の世界のワークライフバランスを調査する「Global Life-Work Balance Index 2025」で60カ国中で世界5位となりました。 (※3)
出典及び画像引用元:Global Life-Work Balance Index 2025
ノルウェーは、ワークライフバランスの実現と生産性向上のために、リモートワークを含む柔軟な働き方が浸透していると言われるリモートワーク先進国です。
世界中でコロナ禍に進んだリモートワークですが、マネージメントがしづらいなどの理由から各国でリモートワークから出社に戻すRTO(Return to Office)を検討する動きも出てきています。
この記事では、コロナ禍後でもリモートワークを含む柔軟な働き方で高い労働生産性を維持しているノルウエーの実態をみてみます。
※1 出典:世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング・推移(IMF) (グローバル・ノート)
※2 出典:労働生産性の国際比較 2024概要(日本生産性本部)
1. 生活の質の高いノルウェー
まず生活の質が高いことで知られるノルウェーの概要を見てみましょう。
国連が発表する「世界幸福度ランキング(ワールドハピネスレポート)2025」(※4)でノルウェーは第7位であり、2017年には1位に輝いています。
ノルウェーが生活の質が高い理由とされる特徴は、主に4つです。
1) 充実した社会保障制度
ノルウェーと日本の社会システムを比較した際に最も印象的な相違点として挙げられるのは、医療費と教育といえるでしょう。
ノルウェーでは医療費に年間上限制度が設けられており、一定額(年間約3〜5万円)を超えた分は無償となる点、さらに、ノルウェー国民であれば初等教育から大学まで、公立教育機関の授業料は原則として無料であり、経済的な負担を大きく心配せずに学ぶことができます。
そして父親の育児休暇を含む世界最長の育児休暇制度を誇る充実した育児・保育制度もあります。
この包括的な社会保障制度は、北欧型福祉国家モデルの典型例として知られており、国民が経済的な負担を懸念することなく、質の高い医療サービスを受けられ、また希望する教育を追求できる環境が整えられています。
2) 平等な社会構造
世界界経済フォーラムが公表する「世界ジェンダー・ギャップ報告書2025年」では、世界3位のジェンダー平等国になりました。(※5)
ノルウェーは、男女平等を目指すために様々な取り組みが実施され、男女間での社会格差が少ない国と言われています。
閣僚の男女比をほぼ半々に保つクオータ制、国営企業及び上場企業の取締役会の女性比率を40%以上にする法律、男女ともに育児休暇を取得できる制度、徴兵制の男女ともに義務化など様々な法律があります。
3) 手厚い年金制度
ノルウェーは石油産油国で、石油・天然ガスはノルウェーの輸出の約74%を占めています。
石油・ガス産業からの収益を「Government Pension Fund Global」(石油基金)として積み立てることによって充実した年金制度があります。この基金の運用益が、国民の年金制度や社会保障を支える財源として活用されています。 (※6)
4) 物価は高い一方、高い所得水準
ノルウェーの標準消費税は世界で2番目に高いとされる25%ですので、当然物価も高くなります。
その一方で、ノルウェーの年収平均は€45,793(800万円超)でヨーロッパで4番目に高所得の国となっています。物価を調整した購買力調整後の平均給与では、ノルウェーはヨーロッパで3番目に高い平均給与となっています。 (※7)
高い物価ではありますが、ノルウェーは石油年金基金により所得に占める税金と社会保険料の合計の国民負担率は54.9%で世界で14位 ( ※8) と他の北欧型経済国より低くなっています。
税金が高く物価も高いけれども所得水準も高いため、豊かな暮らしがすることができます。
※4 出典:World Happiness Report 2025 (Wellbeing Research Centre)
※5 出典 : Global Gender Gap Report 2025 (世界経済フォーラム)
※6 出典:現代のノルウェー (ノルウェー外務省)
※7 出典: European average earnings rankings: Where does your country stand? (ユーロニュース)
※8 出典: 国民負担率の国際比較(財務省)
2. リモートワークと高い生産性を支える文化
ノルウェーは、他の北欧諸国と同じく北欧型福祉国家です。北欧型福祉国家とは高負担・高福祉を基本とし、高い社会的平等と生活水準を実現する国です。
ノルウェーではワークライフバランスの実現と生産性向上のためにリモートワークを含む柔軟な働き方が浸透しているとされることが大きな特徴です。
ワークアプリケーションズの調査によるとノルウェーのリモート事情は進んでいて、82%の企業が柔軟な勤務制度を導入していて78%の企業がリモートワークを認めており、93%の企業が生産性が高いと回答しています。 (※9)
リモートワークを推進しながら、労働生産性を高く保つ文化がどこからきているか見てみましょう。
1) ワークライフバランスを重視
前述しましたが、ノルウェーは人事業務などのプラットフォームを提供するRemote社の調査「Global Life-Work Balance Index 2025」で、60カ国中で世界5位となっています。 (※3) 一位はニュージーランドで、アイルランド、ベルギー、ドイツが続いています。
またアメリカのソフトウエア会社・KISI社の調査で、首都のオスロは、世界で一番ワーク・ライフ・バランスの取れている都市に輝いています。 (※10)
仕事を早く切り上げて家族と過ごすのが一般的で、家族と個人の時間を重視する姿は、まさにワークライフバランス先進国といえるでしょう。
2)多様な働き方の受容
パートタイムやリモートといった多様な働き方が一般的に受け入れられています。ノルウェーはリモート普及率自体は高いわけではありません。
Eurostatによると2023年のノルウェーのフルリモート率は6.5%でヨーロッパの平均の8.9%を下回り、27カ国中の15位となっています。 (※11)
しかしリモートワークが急増しており、2022年のStatistaレポートによると、2017年には時々リモートワークを行う従業員の割合が10.4%に対し2023年には41.8%へと大幅に増加しました。 (※12)
これは、コロナ後もハイブリッドな働き方が新たに確立していることを示しています。
3) 世界で最も寛大な育休制度
ノルウェーは、世界で初めてのパパ・クオータ制度と呼ばれるパパ育休制度を導入した国です。
ノルウェーの育休制度(母親の場合は産休・育休)は、同一の制度の枠内で母親と父親とが休暇を分け合う形で規定されています。給与額100%補填の期間が二人合わせて49週あり、80%補填だと59週となる世界で最も寛大な育休制度があります。 (※13)
4) 短い労働時間
ノルウェーは世界でも最も短い平均労働時間の国の一つで、平均33.5時間という数字が出ています。 (※14 )
法定労働時間は、週40時間でありながら実際の労働時間が短いというところからも、長い労働時間を好まないという文化なのかもしれません。
また、従業員は年間25日の有給休暇が法律で認められていますが、多くの会社はそれを上回る年間30日の休暇を保証しています。
さらに、年間30日まで休暇を取得した従業員には前年度の通常報酬の12%に相当する休暇手当が支給されるという制度もあり、いかにノルウェーの企業が短い労働時間を奨励しているかがわかります。
5) 生産性を評価する文化
ノルウェーは一人当たりのGDPは世界第6位(2024年IMF推計) (※1) 、時間あたりの労働生産性の国際比較ではOECD加盟28カ国中世界2位 (※2)という労働生産性の高い国です。
長時間労働は評価されず、高い生産性で早く仕事を終えることを重視する文化といわれています。
※9 出典:【調査報告】生産性第2位のノルウェーと日本における「働き方」に関する意識調査を実施~「自社の生産性高い」、ノルウェーは日本の4倍、業務の自由度と働き方の多様性が影響~
※10 出典: 世界で最もワーク・ライフ・バランスの取れている都市 トップ10 (ビジネスインサイダー)
※11 出典: Employed persons working from home as a percentage of the total employment, by sex, age and professional status (%) (eurostat)
※12 出典:Where Europeans Get To Work From Home (statistic)
※13 出典:Parental benefit and parental leave in Norway (Nordic Co-operation)
※14 出典: Average usual weekly hours worked on the main job (OECD)
参照:ノルウェーにおける従業員の福利厚生 (リモート)
まとめ
ノルウェーでは、リモートを含む柔軟な勤務制度の容認が高い生産性に繋がり、そしてワークライフバランスと生活の質の高さにつながり、そして「幸福の国」を作っています。
ノルウェーは高福祉高負担の北欧型福祉国家モデルを採用し、充実した社会保障制度が確立した国です。また高負担ではありますがそれでも他の北欧諸国よりも負担が低い理由は、ノルウェーが世界有数の産油国だからでもあります。
日本とは国の産業基盤、また社会保障制度が大きく異なっているために、ノルウェーのモデルを日本がそのまま取り入れることはできません。
しかし、ノルウェーの高い労働生産性のベースとなっている社会規範に根ざす協調主義・平等主義は、日本の集団の調和を重視する社会に少し似ているところもあります。
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