
2025年7月8日
出社回帰は一部の企業だけ?オーストラリア在住ライターが見る実際の海外リモートワーク事情とは
記事の調査概要
調査方法:海外ライターの執筆/インターネット調査
調査対象:現地の声及び海外記事リサーチ
調査期間:2025年
世界は日本と同様に出社回帰なのか?
SNSのX(旧Twitter)社に続き、米Amazon.comが社員に原則として週5出社を求めるRTO(Return to Office)の情報がニュースで流れ波紋を広げています。 コロナ禍を経ても、海外に比べてリモートワーク率の低い日本国内では、「ほら、やっぱり出社すべき」と、企業もメディアも出社回帰の風潮が強まってきました。
海外で生活する筆者は、日本の友人からそうした状況を聞くと、海外の実情は違うのに、メディアによって偏った情報しか届けられていないのでは?と感じてしまいます。
世界規模で見ると、テック系企業を中心にリモートワーク率は高まる様子が見られ、とりわけオフィス出社とのハイブリット型の導入によって、働く社員がより生産性高まる就業手段が選べる状態が定着してきたように思えます。
本記事では、海外のリモートワーク事情について、筆者の住むオーストラリアだけでなく、アメリカやEUの事情も交えてお伝えして参ります。
世界各国のリモートワーク最新事情
コロナ禍後の変化と現在のトレンド
働く人の権利を守る欧州モデル
オーストラリアでリモートワークが広がった背景には、包括的な法制度や企業文化があります。
日本の現状 — リモートワークは経営者の判断に委ねられる 日本が目指すべきは、「柔軟なハイブリッド型リモートワーク」ではないでしょうか。日本ではメディアが出社回帰を強調する傾向があり、「リモートワークは悪」「出社こそ正しい」という二元論的な風潮が見られます。
「出社回帰」(RTO :Return to Office)という報道が目立ちますが、データはどう語っているのでしょうか。
WFH働き方と意識に関する調査2025年のレポートによれば、現在も世界中の労働者の50%以上が週に1〜5日の間で自宅勤務を経験しています。
コロナ禍前はわずか20%程度だった「リモートワーク」実施率は、パンデミック後に一旦減少したものの、現在は安定した水準を保っています。特に欧米では、企業の戦略として「選択できる働き方」がスタンダードになりつつあるのです。
2025年4月時点で、フルリモートワークは全体の13%、リモートワークとオフィスの両方のハイブリッド型は27%となっており、単純な「オフィスへの全面回帰」ではなく、より柔軟な働き方へと進化しています。
特に注目すべきは「ボーダレス化」という新たなトレンド。国や地域に関係なく最適な人材を確保するため、欧米企業を中心に「Work from anywhere(どこからでも働ける)」制度が広がっています。これは単なる福利厚生ではなく、グローバル競争で優位に立つための経営戦略なのです。
アメリカ:テック企業が推進する新たな働き方革命
シリコンバレーが示す未来の働き方
アメリカでは、大手のテック企業が「オフィスレス文化」を強力に推進しています。Adobe、DoorDash、Shopifyなどが完全または部分的なリモートワークを積極的に導入し、成果を上げています。
特に注目すべきはShopifyの事例です。2020年、同社は「オフィスは過去のもの」と宣言し、全従業員のリモートワークを基本方針としました。
2025年現在、世界中に社員を抱えながらも、オフィスはカナダの本社を含め、ニューヨーク、トロントなど5カ所のみ。同社はeコマースのプラットフォームを通じて175カ国以上で数百万のビジネスを支援していて、大胆なリモートワーク採用戦略により、世界中から優秀な人材を確保することに成功しています。
MBOパートナーズ・デジタルノマド2024年版の報告によれば、アメリカ人労働者の約11%(1,810万人)が「デジタルノマド」として場所に縛られない働き方を実践中。2019年比で147%増と、長期的な成長が続いています。
アメリカの大手企業がこうした柔軟な働き方を推進する背景には、広大な国土を持つ国ならではの事情もあります。地方の優秀な人材を獲得するには、地理的制約を取り払う必要があったのです。テクノロジーの進化により、ZoomやMicrosoft Teamsなどのオンラインツールでコミュニケーションの質も向上し、リモートワークの課題も次々と解決されています。
EU諸国:法制度が支える働き方の自由度
EUでは、労働者のワークライフバランスを重視した法整備が進み、リモートワークが権利として確立されつつあります。2019年に制定された「ワーク・ライフ・バランス指令」では、育児や介護をする労働者に対し、勤務時間短縮や勤務場所の変更を雇用者に要求できる権利を保障しています。
国別に見ると、その取り組みはさらに進んでいます。
スウェーデン
「働く時間も場所も自分で選べる」文化が根付いています。「Work Environment Act(労働環境法)」は自宅であれオフィスであれ、労働者の健康と安全を守るべきと定めています。
労働組合もリモートワークの権利を守る活動を行い、企業と労働者の間の透明性を確保しています。
フィンランド
2020年に施行された「Working Time Act(労働時間法)」により、従業員は週の半分以上をリモートで働くことが法的に認められました。企業はオフィスへの出勤を強制できず、労働者の選択に委ねられています。
この制度により通勤時間の削減や家庭との両立が可能となり、結果的に生産性も向上しています。
オランダ
Eurofound2024年のレポートによると、オランダはEU加盟国でリモートワーク普及率第1位を誇ります。テレワーク可能な業種において、男性の83%、女性の72%がハイブリッド型またはフルリモートを実施。
「Flexible Working Act(フレキシブル労働法)」が在宅勤務の選択権を保障し、在宅勤務環境の安全性も雇用主の責任として明確化されています。
オーストラリア:アジアで最もリモートワークが進む国
アジアパシフィック地域のリモートワーク先進国
オーストラリアは、アジアパシフィック圏でリモートワーク導入率第1位の国として注目されています。
2023年、オーストラリア政府は「Fair Work Act(公正労働法)」を改正し、育児・介護などの事情を持つ従業員のリモートワーク希望に対し、雇用主が合理的理由なく拒否できない法的枠組みを整備しました。
CEDAの在宅ワーク2024年度の報告によれば、8月時点で全人口の36%が定期的に在宅勤務を実施。これはコロナ前の2016年の5%から大幅に増加しています。在宅で働く最大の理由は「時間配分の自由度でフレキシブルに働くことができる」とのこと。
特筆すべきは、小さな子供を持つ女性や障害者など、従来の働き方では労働市場への参加が難しかった層が、リモートワークの普及によって働きやすくなっている点です。オフィスの有無に関わらず成果を重視する文化が、ワークライフバランスの向上に貢献しています。
オーストラリアのリモートワークを支える制度
法的基盤
• 公正労働法(Fair Work Act)改正: 2023年にリモートワークなど柔軟な働き方を「正当な理由なく拒否できない権利」として改正。雇用者は従業員のリモートワーク要請を真摯に検討する義務があります。
• 職場健康安全法(WHS法): 自宅勤務環境も職場として認め、雇用主に安全確保義務を課します。
税制優遇
• ホームオフィス控除: リモートワーカーは自宅での仕事関連費用(電気、インターネット、設備など)を税控除可能です。
• 簡易申告方式: 1時間あたりの定額控除方式で手続きを簡素化しました。
インフラ整備
• 全国ブロードバンドネットワーク(NBN): 地方を含む全土に高速インターネットを整備し、どこからでも働ける環境を実現しました。
• デジタルワークハブ: 地方や郊外にコワーキングスペースの設置が増えました。
• リージョナル・リロケーション・グラント: 地方移住を伴うリモートワークへの補助金制度があります。
企業文化
• Results-Only Work Environment (ROWE): 成果主義に基づく評価システムの普及がありました。
• Digital Nomad Visa: デジタルノマド向けビザ制度の整備が進みました。
これらの制度により、従業員は柔軟な働き方が“権利”として保証されるようになったと感じています。国や企業の総合的な取り組みにより、オーストラリアは「オフィスレスの理想郷」として世界から注目を集めています。
日本のリモートワークの現状と未来
WFH働き方と意識に関する調査2025年のレポートによれば、北米・ヨーロッパではリモート比率が高水準を維持しているのに対し、日本を含むアジア圏は依然として導入率が低い傾向にあります。
大企業では導入が進んでいるものの、中小企業では制度整備やITインフラの構築が課題となっています。リモートワークの導入には通勤時間削減やワークライフバランス向上といったメリットがある反面、コミュニケーションの難しさやチームの一体感の低下といった課題も指摘されています。
日本が目指すべき未来の働き方
しかし、真に重要なのは社員一人ひとりが最大限貢献できる働き方を自ら選択できる環境づくりだとは思いませんか?
オーストラリアがリモートワーク先進国となった背景には、インフラ整備に加え、「成果主義評価」の推進があります。日本でも勤務時間ではなく、アウトプットや成果で評価する仕組みを広げることで、リモート勤務への不安は解消されるでしょう。
日本政府も地方創生や働き方改革の一環として、観光庁を中心に「ワーケーション」(ワークとバケーションの造語)を推進しています。こうした政策により、都市集中型からボーダレスな働き方へと移行し、地方活性化という相乗効果も期待できます。
制度面と意識改革の両輪で進めることで、日本でも場所や時間に縛られない「新しい働き方」が定着する日はそう遠くないでしょう。
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