2026年1月19日
外国人リモートワーカーの受け入れ体制から見る、マレーシアのリモートワークへの向き合い方
マレーシアはマレー系、中華系、インド系が共生する多民族国家であり、その文化的背景を活かして海外からのリモートワーカーの受け入れを進めています。
マレーシアにおける外国人リモートワーカーの増加の背景には、異文化を持つ外国人に寛容であるという文化的要因の他にも、近年のマレーシアで盛んになっているビジネスが海外からのリモートワーカーを求めているという側面もあるようです。
今回は、マレーシアで働く外国人リモートワーカーの雇用形態やビザの側面から、マレーシアにおけるリモートワークへの向き合い方を知っていきましょう。
1.マレーシアでリモートワークが可能になる滞在方法
マレーシアを拠点に就労する際は、就労環境に応じたビザが必要になるため、ここではマレーシアでのリモートワークを可能にする4つの滞在方法をご紹介します。
1.1 デジタルノマドビザ
DE Rantau Nomad Pass(以下、デジタルノマドビザ) は、マレーシア政府の機関 Malaysia Digital Economy Corporation (MDEC) が管轄する、リモートワーカーやデジタルノマド向けのビザです。
当ビザは18歳以上の外国人を対象としており、IT・デジタル分野に限らず、職種の適格性チェックに合格したその他のリモートワーク職も申請対象となっています。
ビザ取得にあたっての年収要件として、IT分野の職種であれば年収24,000ドル以上、それ以外の職種では年収60,000ドル以上という基準が設定されています。
あくまで「リモートワーク(海外クライアントまたは国外の雇用主向け)」に限定したビザのため、マレーシア国内企業への就業、マレーシア国内向けビジネス提供、現地での雇用は対象外です。
このビザを取得することで3〜12か月の滞在が可能になり、ビザの有効期限前に延長申請をすることで、さらに最大12か月の更新可能が可能となるため、合計で最長24か月の滞在が可能です。扶養家族の帯同も可能になっています。
出典:MDEC
1.2 現地就労ビザ
Employment Pass(以下、EP)は、マレーシア国内で法人登記された企業に雇用される外国人向けのビザで、マレーシア移民局および関連政府機関が管轄しています。
EPは、マレーシア企業から正式に雇用され、国内で就労することを前提としたビザであり、個人が単独で申請することはできず、必ず雇用主企業がスポンサーとなって申請を行います。
EPの申請対象者は、主に専門職や管理職レベルの外国人で、雇用主側はポジションの必要性と外国人採用の正当性を示す必要があります。
給与基準はカテゴリーごとに設定されており、一般的に最低月給5,000リンギット以上(職種・カテゴリーにより基準は異なる)が必要とされています。
EPはあくまで「雇用主であるマレーシア企業のためにマレーシア国内で働く」ことを前提としており、国外クライアント向けのリモートワークや、マレーシア企業以外の雇用元から報酬を得ることは認められていません。
一方で、雇用契約および企業の就業規則によっては、オフィス勤務に加えて在宅勤務やハイブリッド勤務などの柔軟な働き方が認められるケースもあります。
滞在期間は通常1〜5年で発給され、更新も可能です。また、帯同家族向けのDependant PassやLong-Term Social Visit Passの申請もでき、家族とともに滞在することができます。
出典:ExpatriateServicesDivision
1.3 MM2Hビザ
Malaysia My Second Home(以下、MM2H)は、外国人にマレーシアでの「長期滞在資格」を与える制度です。
25歳以上の外国人を対象に、150,000ドル以上の定期預金と600,000リンギット以上のマレーシアでの不動産購入を条件としており、その額に応じて5〜20年の期間で交付されます。
かつてはより低い基準が設定されていましたが、現在の発行条件がとても厳しいため、日本人がリモートワーク目的で取得することは現実的な選択肢ではありません。
出典:IMMIGRATION DEPARTMENT OF MALAYSIA
1.4 ビザなし滞在
マレーシアでは、入国時にビザを持たない外国人に、最大90日間の短間滞在を認めています。
この短期滞在中にノマドワークをしている外国人も多く見られますが、頻繁かつ継続的なリモートワークを前提とする場合、ビザなしでのリモートワークは法的なグレーゾーンに該当するリスクがあります。
特に、定期的に入国時にリモートワークを続けていると、マレーシアでの就業とみなされる可能性があるため、移民局の判断次第で問題になる場合があります。
※ビザに関しての記載状況は変化しますので、適宜、公式サイトでご覧ください。
出典:PERMANENT MISSION OF MALAYSIA TO THE UNITED NATIONS(UN),GENEVA
1.5 マレーシアでのリモートワークに最適な滞在方法は、デジタルノマドビザの取得
以上4つの滞在方法の特徴を踏まえた上で、日本人がマレーシアで安全にリモートワークに取り組むための最適なビザは、日本でのキャリアを継続する意思があるかによって左右されます。
日本でのキャリアを重視される方や、フリーランサーの方におすすめな滞在方法は、デジタルノマドビザだといえるでしょう。デジタルノマドビザであれば、IT・デジタル系の専門職以外の業務であっても承認される可能性があり、多くの職種のリモートワーカーに門戸が開かれています。
例えば、会社の各マネージャー職やテクニカルライター、税理士や会計士などの業種も対象となっているため、将来的に日本に戻って仕事をすることを考えている方であってもキャリアと海外からのリモートワークを両立させやすいです。
一方で、日本でのキャリアを中断する形での就労が可能であれば、EPを候補に考えることもできます。その際、現地での募集ポジションがリモートワークを認めているかどうかをしっかり確認することが求められます。
2.各ビザの発行数から見る、リモートワーカーの推移
2.1デジタルノマドビザのデータ
2024年10月時点では、総数3,938名の応募の中から、1,924名のリモートワーカーがデジタルノマドビザを取得しています。
MDECは、デジタルノマドビザの利用者が多い国として、ロシア、パキスタン、イギリスの次に日本を挙げており、その数はアメリカからの利用者を超えているようです。
2024年度のデジタルノマドビザ保有者は、前年度と比較して2倍に増加しているため、この制度の認知度の高まりと同時にその数は増えていると考えられます。
出典:The Star
出典:malaymail
2.2 EP(現地就労ビザ)のデータ
EPの発行数は公式には公開されていないものの、日本人がEPを取得する際の主な受け皿になっているBPO企業(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)はマレーシアに数十社あり、その数は他国と比較しても多めです。
BPO企業で日本人が担当できるポジションはカスタマーサポート、インサイドセールス、コンテンツモデレーターの主に3つで、その中でもカスタマーサポートは日本語のみで完結できる業務も多く、英語力に自信がない日本人でも挑戦しやすいと言えます。
カスタマーサポートは、業務開始時の対面研修を終えればリモートで働ける場合も多いため、EPを使ってリモートワークをしている日本人はこのポジションであることが多いです。
3.リモートワーカーを受け入れるマレーシア特有の設備・施設
マレーシアでは、外国人が滞在しながら働くことを前提に、住環境からワークスペースまで幅広い面で環境整備が進んでいます。
特に都市部では、到着したその日から生活と仕事を両立できる設備やサービスが揃っており、初めて海外で働く日本人にとっても適応しやすいのが特徴です。
3.1 長期滞在可能なコンドミニアム
都市部のコンドミニアムはほとんどが家具・Wi-Fi付きで、入居後すぐに生活を開始できる点が魅力です。
3ヶ月以上の中期滞在や長期滞在であれば現地の賃貸情報サイト(PropertyGuruやiPropertyなど)から、それ未満の期間であればAirbnbからも賃貸物件を探すことができます。
プールやジム、会議室が併設されている物件も多く、自宅を拠点にしつつ快適にリモートワークができます。
コンドミニアムはカードキーによるオートロックシステムが主流で、セキュリティがしっかりしているため、長期滞在者や単身者でも安心して利用することができます。
3.2 街中のコワーキングスペース
クアラルンプールやペナンを中心に、コワーキングスペースが急増しています。
高速Wi-Fi、会議室、ドリンク設備が整い、ドロップイン利用から月額契約まで幅広く選べます。
外資系企業やスタートアップの利用者も多く、リモートワーカー同士の交流の場としても機能しています。
3.3 Wi-Fi環境が整った、リモートワーカーフレンドリーなカフェ
マレーシアでは、カフェで作業する文化が定着しています。無料Wi-Fiと電源がある店舗が多く、作業しやすい広めのテーブルや、1人ずつ仕切りで区切られた作業用の席など、静かな空間が確保されています。
チェーン店からローカルカフェまで選択肢が豊富で、気分に合わせて働く場所を変えられる柔軟さが人気です。
4. 外国人リモートワーカーの受け入れ態勢から見る、マレーシア全体のリモートワークに対する考え方
4-1. デジタル経済戦略としてのリモートワーカー誘致
マレーシアは外国人リモートワーカーを、単なる滞在者ではなく新たな経済圏を生む存在として位置づけています。
政府はデジタル経済を国家戦略の柱に据えており、その象徴がMDECによるデジタルノマドビザの積極的な発給だといえるでしょう。
申請者・承認者数が前年の約2倍に増加していることからも、マレーシアがリモートワーカーを重要なターゲットとしていることが読み取れます。
リモートワーカーらは観光客より長期滞在し、移住者より流動的であるため、住居、飲食、交通などに安定的な支出を生む点が国家にとって魅力となっています。
4-2. 多文化社会の寛容さが支える受け入れ基盤
マレーシアは多民族国家として、異文化に対する寛容度が高く、英語が社会全体で通じることもあり、外国人にとって生活上のストレスが小さいと言えます。
この“社会的な受容力”は制度以上にリモートワーカーの増加を支えており、文化・宗教・価値観の異なる外国人が自然に溶け込みやすい環境が形成されていることが読み取れます。
4-3. 労働市場の補完としてのリモートワーカー
労働市場の視点では、リモートワーカーは一部業界の人材不足の補完としても機能しています。
特にBPO企業では日本語話者の需要が高く、EPを取得した日本人がカスタマーサポートやコンテンツモデレーションに従事するケースが多いです。
対面研修を経てリモート勤務へ移行できる企業もあり、「現地就労ビザ+リモートワーク」の働き方が一般化しつつあるようです。
一方で、デジタルノマドビザは国外クライアント向けの働き方を維持できるため、フリーランスや海外所属者との相性がよいと言えます。
4-4. 都市インフラの進化と「働ける生活空間」への転換
家具付きコンドミニアム、高速インターネット、コワーキングスペース、カフェ文化など、マレーシアの都市インフラはリモートワーク前提での滞在を強く後押ししています。
ワークラウンジを備えたマンションも増えているなど、生活と仕事が同じ場所で完結できる設計が進んでいる点は、他のアジア諸国と比較しても特徴的であると言えるでしょう。
5. マレーシアを働く場所として捉えるということ
日本人が海外でリモートワークを行う選択肢として、マレーシアは制度・環境・文化の三拍子が揃った国であることが見えてきます。
重要なのは、「物価が安い」「住みやすい」といった生活面だけで判断するのではなく、国家として外国人の働き方をどう位置づけ、どの程度本気で受け入れ体制を整えようとしているのか――その“姿勢”を読み解くことです。
本記事で扱った内容は、単なる移住情報ではなく、国全体がリモートワークをどう捉えているのかを理解するための材料でもあります。制度が定期的に見直される中で、マレーシアは外国人の滞在を一時的な消費ではなく「長期的な価値」として扱おうとする方向に動いているといえます。
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