テレワーク・リモートワーク総合研究所

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記事の調査概要

調査方法:海外ライターの執筆/インターネット調査

調査対象:現地の声及び海外記事リサーチ

調査期間:2025年

造船業界で海外・国内の船会社のカスタマーサクセスを15年間、教育業界で多国籍チームを率いて5年間務めた筆者は、海外企業と日本企業のリモートワークのゆくえとギャップに強い関心をよせています。
リモートワークで成功した海外企業の考えの中心にあるのは、従業員の働き方と企業理念との一体感。一方、日本で強く感じるのは、企業と従業員の従属関係です。

今回は世界のトップ企業、Airbnb、Spotify、GitHubの成功事例を取り上げ、筆者の海外ビジネス経験からその特徴と人事戦略成功の秘訣を読み解いていきます。

本当に今、「リモートワーク」の可否を決めていいの?

日本では、2020年のパンデミックから突如始まった印象のあるリモートワーク。
筆者は2002年から20年以上リモートワークを続けています。今考えると「リモートワーク」の原形ともいえる働き方でした。
直接出向くことのできない遠い海外の会社や、大海を航行中の船舶と通信する仕事では「リモート」しか選択がなかったことに端を発します。

インターネットやメール、デジタルツールのない時代。
当初使ったのは「FAXと衛星電話(インマルサット)」です。

大型船舶との衛星電話の通信料は非常に高く、船が航海している地点ごとに値段はさまざまで、1分5〜10ドル(当時の為替で約700〜1250円)。よほどの緊急事態でなければ使えない値段でした。

そこで通常はFAXで通信しました。クライアントの船舶から受け取ったFAXに返信後、待つこと数日~1週間。遅い時には数か月経ってからの返信もざらでした。

とにかくスローペース。ツールがなく不便なため労力と時間がかかる時代に、前例のない「リモートワーク」を行っていくには、毎日がトライ・アンド・エラー、すべてにおいて創意工夫が欠かせませんでした。

筆者からすれば、「リモートワーク推進が進まない」「RTO(Return to Office)/出社回帰すべき?」と、たった5年でいら立つ多くの日本企業の様子には困惑を隠せません。

リモートワークを廃止すべきなのでしょうか?

結論を出すには、まだ早すぎる気がします。急がずじっくりと時間をかけるべき課題です。

判断するためには「人事戦略に何が不足しているのか」「どのような選択があるのか」という現状の把握と課題について、将来を見据えて真剣に考えていくことが大切です。さらに、企業が導き出した答えを実行するには、もっと多くの時間や労力がかかることを認識しなくてはなりません。

今こそ企業も従業員もWin-Winの働き方を、「リモートワーク」の採択可否を考える中で見つける時なのではないでしょうか。

この記事では、世界のトップ企業がどのようにしてリモートワークを行っているのか、またその人事戦略にはどのようなポイントがあるのかを順に見ていきます。

体験したくない?Airbnbの「暮らすように旅する」働き方

筆者が世界38都市に乗務していた頃は、旅することと暮らすことが一体でした。さまざまな都市を訪問し、そこに滞在。また違う土地へ移動を繰り返す暮らしです。

この考えを企業理念として実践しているAirbnb(本社:米国、従業員数:6,907名)の働き方をご紹介しましょう。

Airbnbの企業理念は「暮らすように旅する」

2022年に「Live and Work Anywhere」(どこでも暮らし、どこでも働ける)制度の運用を開始しました。従業員はバリ島やメキシコ、フランスの田舎、アルゼンチンなど170か国から選べ、年間90日まで滞在勤務が可能。国内であれば給与も変更もないという好条件です。

仕事が忙しすぎて、休みを取ると周囲に迷惑をかけないか心配する方や、「有給休暇をいつ申請しよう?」とスケジュール調整に苦心している方には、願ってもない労働条件ですね。
気がねしてスケジュール調整や旅行計画を立てなくても、Airbnbの90日自由勤務なら、そっくりそのまま「ワーケーション」(WorkとVacationとを組み合わせた新しい働き方)。所定の勤務時間をクリアできる上、休暇と旅行までも一度にできてしまいます。

従業員のホスピタリティが、Airbnbの未来をつくる?

Airbnbの求める「快適さ」とは何でしょうか?

宿泊施設でできることは限られていて、サービス内容も決まっています。では、「お客さまの旅をもっと快適にするには何ができる?」を考えるなら、まずどうしますか?

答えは【自分で体験して考える】ことです。

これを実行したのがAirbnbのリモート制度なのです。
従業員がお客さまとして「滞在を体験(CX:顧客体験)」すれば、もっと居心地をよくするために「お客さまが何を望むか?」がわかります。こうしてAirbnbは「お客様にとって何が最適か(CX)」の答え(ホスピタリティ)を導くヒントを、従業員のリモートワーク(EX 従業員体験)の中で今も見つけ続けています。EXとCXとを直接リンクさせる素晴らしいアイデアだと思いませんか。

ユニークな企業戦略は大きな反響を呼び、2024年1月にはAirbnbのキャリアページへの訪問者数は月間85万人を超えました。多様なグローバル人材を獲得する戦略として、大きな成果を上げたのです。

Spotifyの「Work From Anywhere」はどこでも自由?

Spotify(本社:スウェーデン、従業員数:7,691名)の理念は「仕事は場所ではなく成果である」です。

北欧流「信頼ベース」はいつでも変更可能なリモートワーク

Spotifyが「従業員の信頼」をベースに「Work From Anywhere(どこからでも勤務)」プログラムのために作ったガイドラインがあります。人事戦略で目を引くのは、採用時から、地域やタイムゾーンごとに拠点を決めて、自宅・会社・コワーキングスペースなど「どこで働くか」を個人の選択に委ねている点です。しかも、勤務形態はいつでも変更可能という柔軟さも魅力的ですね。

また、リモート制度を支える充実したサポート体制や環境があります。快適かつ安全に働けるように家具やIT機器の月額手当が支給され、オンラインコースなどの幅広い学習機会もきちんと提供されています。

SpotifyのEU圏従業員は、どこでも働ける環境によって働く裁量が増え、モチベーションや満足度が上がり、離職率が15%も減少しています。「信頼に基づく仕組みは、こんなにも効果があるのか」と改めて優れた人事戦略の力に驚かされます。

「Spotify リズム」が実現する成果主義のマネジメント手法

クラウド型プロジェクト管理や非同期コミュニケーションを活用し、リモートワークに最適な業務プロセスを採用しています。 どれほどリモートが便利でも、やはり対面での戦略会議や交流イベント、年1回の「コアウィーク」を重視しているのは、チームの一体感を高め、新しいアイデアを生むのは画面越しでなく、「人と人」が対面で行う協業だからでしょう。こうしてオンラインと対面のバランスをうまく取っています。

人事評価は「成果主義」。独自の「Spotify リズム」を評価制度や人事制度の土台としました。トップダウンではなく‟各チームが自走する評価システム”で、評価と調整を自らが行う仕組みです。従業員一人ひとりが「自分ごと」として積極的に参加する様子がうかがえます。

GitHubの世界最大「リモートファースト」分散型チームの組織設計とは?

GitHubの特徴は「リモートワークを前提」とした業務設計にあります。全ての業務プロセスをクラウドで管理し、組織運営のノウハウを体系化・共有しています。

リモート前提の運営と非同期コミュニケーション

GitHub(本社:米国、従業員数:5,595名)は2008年にわずか4人からスタートしました。同社の世界最大のオープンソース・プラットフォームは、今では1億人を超える開発者に利用されています。この変遷を想像してみてください。 エンジニア向けのプラットフォームの開発や運営を行っている同社が、世界中に点在する従業員を管理するためには、どのような体系や手法をとれば効率的なのか、すぐに現状を理解できるでしょう。

特記すべきは、非同期コミュニケーションの徹底です。会議やイベントを録画・共有し、時差や生活スタイルに関係なく誰でも必要な情報にアクセスできる仕組みを構築しました。評価はチームへの貢献度も考慮した成果主義です。このように、24時間グローバルな組織の運営の中で、分散型開発の文化が最大限に活かされています。

自律した従業員のサポートはマネジャーの役割

2025年3月、大手テック企業20社が「無制限有給休暇制度」を取り入れて世の中を驚かせました。GitHubもその1社で、「無制限有給休暇制度」に加えて「4か月の育児休暇」も与えています。
これを聞くと「いつ働くの?」「働かなくてもお給料をもらえるの?」と疑問に思いますが、そうではありません。「効率化して時間を作って長期休暇」ではなく、「責任を果たしながら必要な時に柔軟に休める」制度なのです。

しかし、恵まれた制度があり、いくら「自律した働き方」が得意でも、リモートワーク環境では、たった一人で長期間管理していくのは精神的に難しい側面があります。 この時支えになってくれるのが、マネジャーの3つの役目(模範・コーチ・ケア)です。この役目によって、従業員が自分で判断できる力を身につけられ、誰もが活躍できる職場づくりが期待できる素晴らしいバックアップを備えたのです。

リモートワークがかなえる未来像とは?

さて、Airbnb、Spotify、GitHubの3社のリモートワーク人事戦略の成功したポイントは何だと思いますか? リモートワークを長年行い、グローバルチームを率いた筆者は、最大の鍵は「従業員が自律的に働ける環境」と「従業員を信頼し支える公平な人事戦略」だと感じています。

日本企業では「信頼」とは裏腹に、「マイクロマネジメント」が問題視され、「見ていないとサボるのでは?」という不信感が感じられます。そして「指示待ち姿勢」や「トップダウン指導が良い」という意識も改善が必要でしょう。

上記をふまえて、リモート制度を機能させるために、まず何から取り組みますか? 企業全体で取り組む時、筆者は「仕事内容の明文化」「コミュニケーション方法」「人事戦略」が3つの柱だと考えます。

1. 業務内容が文書で書かれてありキチンと把握できること。
2. 非同期コミュニケーションがルール化されていること。
3. 信頼ベースで働く従業員を精神的に支え、自発的に成長する機会を与える公平な人事戦略を行うこと。

簡単な文章ですが、カバーすべき内容や実施するための準備は膨大で、手間も時間もコストもかかります。
つまり、経営層が積極的にコミットしなければ、リモート制度は進まないのです。
そして、推進のキーパーソンとなる人事部門との連携は不可欠。経営層が描く企業戦略と、各部門の計画の方向性がバラバラではリモート推進はなし得ません。この中心で舵を取るのが人事部門です。未来を見すえた長期的な企業戦略として「リモート制度推進」に取り組むことが、最初のステップであり、最終目標でもあります。

なぜリモートワークなのか? ではなく、「リモートワークで何をかなえたいのか?」を考えてみると、企業の目指す方向性や将来の姿が見えてくるのではないでしょうか。

日英西トリリンガル ライター

日英西トリリンガル ライター

航空業界38都市乗務・中米とスペイン7年居住の国際経験を基盤に、造船業界ソリューション部門で海外・国内船舶会社向けカスタマーサクセスとテクニカルドキュメント制作専門職15年、世界展開ランゲージセンターディレクター5年の事業統括実績。現在は、海外企業連携プロジェクトとビジネス記事執筆に特化した日英西トリリンガルライター。

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