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2016.11.10 らしくコラム

吉本興業で35年!竹中イサオの“泣く子も笑う”処世術-Vol.8

竹中イサオ

お笑いの総本山、吉本興業のプロデューサー生活13,000日、5,000人の吉本芸人と渡り合った竹中イサオの処世術コラム。社内外、業界内外からの悩みや疑問、提案に対してボケとツッコミでビシビシ返していきまっせ!

竹中 功(たけなか いさお)

1959年大阪市生まれ、吉本興業で約35年間タレント養成やイベント・映画製作を担当。数々の謝罪会見をこなした「謝罪マスター」でもある。
単行本「よい謝罪 仕事の危機を乗り切るための謝る技術」(1,400円+税)、日経BP社より好評発売中!

相談:「IT業界にあふれるカタカナ用語、なかなか覚えられません。どうしたらいいでしょうか?」(竹中イサオ)

 

わたし竹中イサオ、1年ほど前に「お笑い界」を引退して、「IT業界」に移籍しましたが、業界に溢れるカタカナ用語、なかなか覚えられないのが悩みです。

 

「自分の業界の『常識』は一歩出たら『非常識』になり、その逆に自分の業界の『非常識』は一歩出たら『常識』だ。」なんてことを聞いたり、気付いたことはないでしょうか?

大分と前になりますが、大阪のある業界団体の会合に出た時、幹部から「竹中はん、内緒でっせ!」と前置きがあって、「私らの出荷してる商品、賞味期限が切れたら表のシール貼り直してまんねん。ホンマの味の違いは素人さんよりも私らの方が敏感ですからバレませんねん」と。プロならではの発言です。「味覚は誰にも負けない!」ということなんでしょうな。経験に物を言わせ、味も見た目も素人には分からないからと言って売れ残りを再販売したり、消費期限を偽装したりしていたそうです。しかしこれが今日なら「期限表示偽装」となり大事件になっているものですな。よくこんなおしゃべりおじさんの私に話してくれたものでありますな。

今回はこの「常識・非常識」の話を、業界の専門用語を通してベンキョーしましょう!

 

私は1年少し前まで芸能界におりまして、今はそこからIT業界に引っ越してきまして、聞きなれない「カタカナ」の業界用語に触れる機会が増えて、時々戸惑っております。

種々の「業界用語事典」なども書籍化されているので、勉強熱心な方は本を買って調べて、学習もして、使えるようにしてはるんでしょうか。私も例に漏れずネットで「IT業界用語」などを常々調べるようにはしていたんですが、なかなか覚えられませんな。会議の場で聞き慣れない用語を前にして「聞かぬは一生の恥」ということで、最初のうちはよく意味やその由来を聞いていたんですが、やはり自分自身が使うようにならないとその言葉は忘れられて行くもんですな。学生時代の勉強みたいなもんで、試験の前夜に丸暗記したものは試験終了のベルが鳴った途端に全てを忘れ去っていたもんです。

しかし実際にはそういう言葉に遭遇した現場では、話の腰も折りたくないので言葉の意味も分からず、推測したままにしていることもぶっちゃけ多いです。メモも取って後で調べようとはするんですが、不真面目な私はそのメモをいつも失ってしまいます。ということで今回は、IT業界に溢れる「カタカナ語」について少し触れてみましょう。これはIT業界に限らず自分たちが当たり前に日常で使う言葉が相手にうまく伝わっていないことがあるということに気付いて欲しいものであります。

あなたが使い慣れていると思っている言葉、分かって当たり前という「常識」と決めつけていませんか?

正確に意味が伝わっていないという「非常識」なコミュニケーションになってることがあるかも知れませんな。

 

その前に、昔、「業界用語」と「隠語」をごっちゃにしている若い芸人がいたことを思い出しました。恥ずかしいことですが、自分が芸能界にいることを誇示したくって知ったかぶりをしたいのか、素人さんや他業界の人の前で「業界用語」を使う者が増えたんです。これって業界内だけで使うから有効なんですが、エエかっこしたがるんですね、若い芸人ほど。ところが、いつからか誰からか、テレビやラジオ、舞台で「隠語」を使う阿呆が出てきよったんです。「隠語」はスパイの暗号みたいなもんですから、簡単に人前で使うもんではないんですね。使って内容を推測されたり、察知されてはならんもんなんです。あえて人前で使う時は言葉の裏にある意味を悟られないように使うのが「隠語」なのに面白がって使う者がいたのです。ただ、そういう事を注意する先輩芸人も楽屋にはおりますんで、最近はなくなってきたようですがね。

 

そこで「業界用語」についてですが、それは仕事の場面で使うものですねん。段取りを間違わないように、コミュニケーションがうまく取れるように、言葉を統一したり、簡略化するものですな。

例えば舞台では「上手(かみて)」「下手(しもて)」という言い方があります。客席から舞台を見て(お客様の目線から)右側が「上手」で左側が「下手」と言います。これを知らないと、客席側にいるスタッフが「もっと右に行ってください」と舞台の上にいる人に言えば、その人は自分の右側なのかスタッフにとっての右側なのか混乱する時があります。だから間違わないように「上手」「下手」は演劇や演芸、音楽やダンスなどの舞台芸術・芸能では日本全国共通化してあります。

では「はける」は分かりまっか?これは舞台上に立っている役者や舞台に置かれてある道具などが舞台袖に消えることを言いますねん。だからさっきのと組み合わせると、演出家は稽古中に「はい、そこの警察官の役の人、もっと早く下手にはけてや!」となるのですな。こう聞いたら誰がどこにどう動く指示かが分かりますわな。ちなみにこの「はける」は「水捌(は)けが悪い」とかの「捌ける」から来ているそうです。このようにスムースな指示やコミュニケーションに役立つのが「業界用語」ですな。

 

ところが「隠語」は業界外の人がいたはるときに話の中身を悟られないように、暗号のように交わすもんですわ。今も「飲食店」「警察」「鉄道」「百貨店」「ホテル・旅館」などの業界がよく使われていると聞きます。例えば、飲食店やデパートで従業員の人が「トイレに行ってきます」とはお客さんの前では言いにくいですよね。そんな時に「○○に行ってきます」「○○です」とか言います。周りの人には内容は気付かれませんよね。女子高生が笑顔で使う「MK」などもそうでしょう。ぼくも言われているのでしょう「MK」とね。

このように確かに周囲の人にはズバリの内容を聞き取られるとまずかったり知られたくないことだったり、迷惑だったり、困ったりすることもあるでしょう。だからここに「隠語」が必要なんです。にも関わらず、堂々と面白がって使うのはご法度ですな。興味のある方はネットで調べたりしてみてください。でも実際の意味を知らない方が幸せなときがあります。ここは賢明な読者の方も多いので「芸界」の「隠語」などはあえてここではお披露目しません。ご興味のある方はこのコラムを読み終えてから検索してみてください。

 

そして、IT業界名物、カタカナ用語ですね!業界内の人同士の話なら全く問題ないのですが、私のような初心者や部外者には少しでも「意訳」とか添えてもらえると助かります。私なんか「月に一日でもカタカナ使用禁止デイ」を作って欲しいと願ったほどです。コミュニケーションを取りやすいはずの専門用語が部外者にとってはとても厄介な言葉に聞こえてしまうってことを少しは頭に念じましょう。

私はなかなか「IT業界専門用語」を覚えられないので、中学生みたいに日本語に置き換えて暗記して使っております。読者の中にもそういう方がいたはるかもしれませんね。諸先輩に付いていくために少しだけ復習してみましょうか。

 

「ローンチ(launch)」:新しい商品やサービスを世に送り出すことや立ち上げること。Webサイトを公開するとかにも使いますな。アメリカ映画で「launch an attack」なんて言うセリフが「攻撃開始!」やと言う意味を思い出して、意味がすぐに分かりました。できたら「サービス開始!」「Webの公開!」などと言うて欲しいです。

 

「タスク(task)」:一つ目は課題、作業、職務。コンピュータが処理する作業・仕事の最小単位やて。二つ目の意味は芸能界からの移籍組には難しいです。ASCII.jpによると「ユーザーがコンピューターに対して指示を出す仕事の単位をジョブというが、コンピューターはジョブをさらに分解して、タスクという単位で処理をする。タスクの実行を制御、管理するための機能をタスク管理といい、CPUの割り当てやメモリーの動的な割り付け、プログラムの読み込み、実行中のタスクの監視、割り込みなどを処理する。タスク管理によって、複数のタスクを同時に処理することをマルチタスクという。なお、一度に1つのタスクしか実行できないことをシングルタスクという。」とのこと。現実に使われているのは一つ目のことを指してることが多いんでしょうが、ついつい IT業界の人が「タスク」って言葉を使いはるたびにこの二百文字以上の説明を頭に浮かべてしまいます。また頭から煙が出そうです。

 

「アサイン(assign)」:割り当てる、任命する、配属するなどの意味ですね。実は演芸やテレビ、ラジオ、映画界では全く使ったことがなかったんで、(シャレやないですよ)初めて聞いた時は「アッ、サインですか?」と何かを依頼されたことを快く受け入れることやと思っていたぐらいですわ。しかし今考えると、何となく「話を理解して、それを認める」みたいな感じで言うとあながち離れていないかも・・? いや間違いか!!!

 

自分のいる業界の常識は一歩出たらそこでは非常識。逆に自分のいる業界の非常識は一歩出たらそこでは常識かもしれないという認識は肝やで。

 

一回きりの人生、分からん事はその時に聞いておいた方がええで、あとあと楽やで


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