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チャットアプリとの比較で、感情分析を適用した機械対話の効用を確認

2016年05月11日
【LASSIC感情医工学研究所レポート】Vol.6

 

LASSICが鳥取環境大学、鳥取医療センターと共同で設立した感情医工学研究所では、感情解析技術を産業分野に活かし、企業理念である「『らしく』の実現をサポートする」ことを目指し、実用化のための研究を行っています。

精神・心療内科の分野では、気分状態に不安を抱える患者が年々増加し、こころを良好な状態に導くメンタルヘルスケアが注目されています。また、日本人の生産性が諸外国に比べて低いことが課題となっている中、アンガーマネジメントなどの感情コントロールは生産性を向上させる効果があると注目されています。

しかし実際に、感情と生産性の関連性を明らかにするような研究はあまり行われていないため、有意なデータが必要となっています。

以前のレポートでご紹介した実験では、精神科医の問診技術を知識化してアルゴリズムに実装したEverestを用いた機械対話を実施すると、気分状態が回復する傾向があることを確認しました。

そこで今回は、感情分析を適用した機械対話による気分改善の効用を明らかにするため、他の雑談チャットアプリケーションとの比較実験を行いました。


前回のレポートはこちらから。

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[らしくメディア|事例紹介]【感医研レポートVol.3】|不快な感情状態が生産性を低下させることを実証

 

機械対話による感情推定システム Everestとは

機械対話による感情推定システムEverestは、ユーザの生体データや対話内容を多角的に採取して感情値を算出し、履歴を軟判定して感情遷移の推定を行います。

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Everestの対話画面

 

Everestは精神科医が診断に用いる問診技術を知識化して対話アルゴリズムに組み込んでおり、ユーザの感情推定結果に応じて自己認知に適した応答メッセージを提示します。気分の落ち込みや不安などの感情に関する問題を早期発見する効用が期待されています。

 

研究背景

以前の実験では、作業前にEverestを用いたチャットを行った場合に、作業中や作業後の不快な表情の割合が減る傾向にあることが分かりました。

しかし、これがEverestの特徴である“感情分析を適応した機械対話”による効用であるのか、または雑談的な対話を行うだけでも気分改善の効果があるのかが明らかではありませんでした。

そこで今回は、Everestで対話した場合と、雑談対話を行う代表的なAPI(注1)である、NTT docomoの雑談対話APIを使ったアプリで対話した場合とでそれぞれ感情データを分析し、感情分析を適応した機械対話の効用を明らかにする実験を行うこととしました。

docomodialogueview

NTT docomo 雑談対話APIでの対話例

 

1 API
アプリケーションプログラムインターフェイスの略語で、プログラミングの際に使用できる命令や規約、関数等の集合のこと。

 

実験の概要

被験者5名に対して、Everestでのチャット実験を行い、その後3日以上の間隔をあけて雑談対話アプリでのチャット実験を実施しました。それぞれのチャット前後には2分間表情をトラッキングし、チャット前・チャット中・チャット後の表情を分析しました。

また、チャット後にはアンケートを実施し、主観的な評価を確認しました。

雑談対話アプリでのチャットは、Everestでのチャットで往復した回数と同じ回数で実施しました。

 

方法の詳細

インテル®の生体データを認識する技術「RealSense™」を搭載したカメラで被験者の顔を常時撮影し、表情をトラッキングしました。

表情トラッキングの様子

感情マネジメントシステム画面

RealSense™による表情トラッキングで出力される7種類の表情(AngerContemptDisgustFearSadnessSurpriseJoy)と3つの感情(NegativePositiveNeutral)のうち、アメリカの心理学者ラッセルによるCore-Affectモデルの中で「快」(PLEASANT)な表情である「Joy」に着目して、その割合を分析しました。

快な状態の定義

 

実験の結果

まずEverestで対話した場合、チャット前に不快な状態であった時にチャットを実施した場合、チャット前よりもチャット後の快な表情の割合が増えました。

一方で、不快な状態でチャットを実施した場合は、チャット前よりもチャット後の方が快な表情の割合が下がりました。

 

雑談対話アプリで対話した場合については、チャット前に不快な状態であった時にチャットを実施した場合、チャット前よりもチャット後の方が快な表情の割合が減りました。

また、快な状態で雑談対話を行ったケースについても、チャット前よりもチャット後の方が快な表情が減っていました。

アンケート結果も同じように、Everestでのチャット前に気分状態が悪かった場合はチャット中・チャット後の気分状態が改善しました。しかし、気分状態が良い時にEverestを使うとかえって気分状態を悪化させてしまうという結果となりました。

実験中の快な表情の割合グラフ

実験中の快な表情の割合

 

アンケート結果グラフ

アンケート結果

 

考察と今後の課題

今回の実験結果から、Everestは気分状態が悪い時に使えば気分の改善に効果的だが、気分状態が良い時に使用するとかえって気分状態を悪化させる傾向があると考えられます。

つまり、より効果的にEverestでの気分改善を活用するには、ユーザの感情状態が不快な場合にだけ、感情分析を適応した対話が実施されるような形に改良すればよいと考えられます。

また、アンケートでは、「Everestでの対話はどのように返事をしようか、と考えさせられるが、雑談対話アプリは気軽に対話ができてよかった」という意見が、気分状態が良い時に雑談対話アプリでチャットしたユーザに多く見られました。このことから、常にユーザの顔面をトラッキングしておき、感情状態によって自己認知に適した応答メッセージを返すのか、または雑談的な応答をするのかを自動で判断する仕組みにすればどちらのケースでも気分状態を改善し、ユーザの主観評価も高めることができるのではないかと考えられます。

さらに、「Everestの応答が早いため対話している感覚が薄い」という意見もあったため、一般的な対人チャットのように、考え中であることが分かるような表示をユーザ画面に表示すれば改善できるのではないかと考えられます。 

 

以上の結果は、2016年4月21日に行われた、第23回人間情報学会にて発表しました。

 

■発表の原文は以下のリンクにてご覧ください。

「感情分析を適用した機械対話による気分改善の効用実験」(PDF:443KB)

 

今後もLASSIC感情医工学研究所の研究「感情×IT」にご期待ください。

 


実験に使用した感情解析システムの詳細については、こちらの記事をご覧ください。

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[らしくメディア|事例紹介]【感医研レポートVol.1】
感情解析技術を利用した開発事例


Everestを応用して開発した「減煙支援システム」については、こちらの記事をご参照ください。

減煙支援システムimage

[らしくメディア|事例紹介]【感医研レポートVol.1】
機械対話に基づく感情遷移推定と「症状処方」への応用を発表


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